約 1,076,880 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/254.html
星を見た使い魔-1 星を見た使い魔-2 星を見た使い魔-3 星を見た使い魔-4 星を見た使い魔-5
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/777.html
子供の使い魔② その後部屋に戻ると使い魔についてルイズがたっぷり熱演してくれた 使い魔の仕事は主に 主人の目となり耳となる 主人の望む物を探してくる 主人を敵から守る らしいけれどどうやら僕は雑用をすればいいらしい またどうやらアメリカやイギリス、イタリアなども無いそうだ 神父を倒したせいでここまで変わってしまったんだろうk・・・・・ 「!!! 月が二つありますよ!?」 「当たり前でしょ?あなた何言ってんの!」 「で・・・でもここは地球じゃ・・・」 「地球っていったいどこよ? そんな所聞いた事も無いわ」 もしかしてここって僕がいたのとは違う世界・・・・? 数分後、そこに居たのは満足そうな顔で寝ているルイズと 床で泣きながら寝ているエンポリオだった・・・・ 翌日、エンポリオはルイズより先に目を覚ました 洗濯物を持って廊下に出るとエンポリオは洗い場を知らないのに気がついた 「どうしよう・・・」 学園内を彷徨っていると赤髪の少女に声を掛けられた どこか小馬鹿にしたような目で見ているような気がする 「ぼく、どうしたの?」 「あ、すみません、洗い場はどこですか?」 「洗い場なら向こうよ、そんな年から使用人になるなんて大変ねぇ」 どうやらこの人は僕を使用人と勘違いしてるらしい、 それに正直子供扱いも止めて欲しい 普通使い魔は幻獣等らしいし、見た目も子供だから仕方がないかもしれないけど 「いえ、ぼくは使い魔らしいです」 「・・・・え? 使い魔?」 「はい」 「・・・・もしかして、ルイズの?」 「そうです」 「へ・・・平民を・・・」 見ると必死に笑いを堪えていた ちょっとイラっとした その後話しを聞くとルイズさんは魔法は使えるけど必ず失敗するメイジらしい それで渾名がゼロなんだとか その後洗い場に行き 洗う 洗う 洗う 途中シエスタという人にまで子供扱いされる なんだかボクと呼ばれるのは馬鹿にされてる気がした とにかく洗う 洗う 洗う 洗えど洗えど汚れが落ちないので エンポリオは考えるの(洗うの)を止めた・・・ 部屋に戻ると早速 「あんたどこにいってたの?私の使い魔なんだから、 私より早く目が覚めたのなら私が寝坊しないようちゃんと起こしなさい!」 「僕は洗濯物を洗いn「まず私を起こすの!」」 この人、人の皮を被ったエルメェス兄貴だ、 正直泣きたいよ、徐倫おねえちゃん・・・・ そう思いながらエンポリオは・・・・・泣いた
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1595.html
朝もやの中、セッコとルイズとギーシュは馬に鞍をつけていた。 ルイズとギーシュが乗馬用のごつい靴を履いているのが不安で仕方ねえ。 どんだけ遠いんだ。 そういやギーシュって何ができるんだっけ。ええと・・・ 錬金。これは便利だ、うん。青銅と石以外に何を出せるか知らねえけどな。 固定化。脅迫気味にスーツにかけてもらったが、ルイズに話すと「ドットの固定化は気休め」って言われたっけ。微妙だ。 銅像。いっぱい出せるみたいだがあんまり強くないし目立つ。 やっぱし、秘密っぽい作業には向かねえよな。 こいつ自体目立ちたがり屋だし。 こっそり動くのに向かないと言えばルイズもだ。 セッコ的にルイズの爆発は凄い能力なのだが、 ルイズは爆発を「爆破攻撃」として使うことを非常に嫌がるので期待できない。しかも目立つ。 セッコが一人で悩んでいると、ギーシュが突如改まって話し始めた。 「お願いがあるんだが・・・」 「んん?」 「僕の使い魔を連れて行きたいんだ。」 「どこにいるんだあ?」 「ここ」 ギーシュは地面を指差した。 その直後、もこもこと地面が盛り上がり、熊ほどもある茶色の生き物が姿を現した。 ギーシュがそれに抱きつく。 「ヴェルダンデ!ああ!ぼくの可愛いヴェルダンデ!でも、最近ちょっと太り過ぎじゃないかな?」 「そいつヴェルダンデって名前だったのかあ。」 前言撤回、ギーシュ(の使い魔)は物凄く使える。 シルフィードに勝るとも劣らねえだろう。 パワフルだし、高速で地中を進める。 しかもオレと違って穴が残るから人の輸送も可能ときてやがる。 陣の外から穴掘ってウェールズを急襲だ、完璧、よしッ!! 「そうだよ。セッコは僕の可愛いヴェルダンデを知ってたのかい?」 「ああ、いつもそいつとシルフィードとオレで、食堂の力仕事手伝って飯もらってるぜ。」 「ヴェ、ヴェルダンデ・・・変なもの食べちゃダメだよ?」 ヴェルダンデは我関せずといった調子で鼻をならした。 ルイズが横から口を挟む。 「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」 「当然。[モグラ]だからな。けど、ヴェルダンデは馬ぐらいなら追いつけるよ。」 「そういう問題じゃないわ。わたしたちが行くのって、アルビオンでしょ」 「あ・・・」 「脳がマヌケね。」 「お別れなんてつらすぎる・・・僕はギリギリまで諦めないぞ!」 「残念ね。」 アルビオンって島なのかよ。結局ヴェルダンデも使えねえのか・・・うう・・・ とりあえずギーシュと一緒になって撫でておく。本当に残念だ。 その時、突然ヴェルダンデが鼻をひくつかせてルイズに飛びついた。 「な、なによこのモグラ」 「なーギーシュ。ヴェルダンデはなにやってんだ?」 ルイズとヴェルダンデが取っ組み合っている。 「この!無礼なモグラね!姫さまに頂いた指輪に触らないで!ああもう!」 「多分その指輪に引き寄せられたんじゃないか? ヴェルダンデは宝石とか希少鉱物が大好きだからね」 「宝石まで探せるのか、すげえなあ。ギーシュオメーにゃもったいねえぜ。」 「いつかはふさわしい主になってみせるさ」 「当分無理じゃねえかあ?」 と、一陣の風が舞い上がり、ルイズに抱きつくヴェルダンデを吹き飛ばした。 「誰だッ!!!」 ギーシュが激昂してわめいた。 朝もやの中から、一人の男が現れた。羽帽子を被っている。こいつも貴族かあ? んんー?どっかで見たことあるなあ。 「貴様、僕のヴェルダンデになにをするだぁー!」 ギーシュが薔薇の造花を掲げる。 が、それよりも早く羽帽子の男が杖?を抜き、ギーシュのそれを吹き飛ばした。 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行することを命じられてね。君たちだけではやはり心もとないらしい。 しかし、お忍びの任務であるゆえ一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」 その男は帽子を取ると一礼した。 なんだ、でかい帽子を被ってなければかっこいいじゃねえか。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」 ワルドはしょぼくれたギーシュを見て、声をかけた。 「すまない。婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」 婚約者ねえ。貴族って大変だな。 ルイズは目を輝かせてワルドを見ている。 「ワルドさま・・・」 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 ワルドはルイズを抱え上げた。ルイズは頬を染めている。 「お久しぶりでございます」 「相変わらず軽いなきみは、まるで羽のようだね!」 「・・・お恥ずかしいですわ」 「彼らを、紹介してくれたまえ」 言うとワルドはルイズを下ろした。 「あ、あの・・・ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のセッコです」 「きみがルイズの使い魔かい?人・・・だよね?」 ワルドが近寄ってくる。 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「・・・うん。」 セッコはワルドを観察した。さっき風を起こしたということはメイジなんだろう。 だが、いい体してやがるなあ。きっと体術もそこそこいけるに違えねえ。 こんな奴をよこすなら、最初からこいつにやらせりゃいいじゃねえか。 いや、もしかするとむしろこいつの方が微妙に信用されてないのかあ? 今考えることじゃねーな。さっさと馬に乗ろう。 ワルドが口笛を吹くと、昨日見たライオンの胴体に鳥の頭がついた珍獣が現れた。 よく見ると羽が生えている。 グリフォン隊隊長つってたし、きっとこれがグリフォンなんだろ。多分。 ひらりとそれに跨ると、ルイズを手招きした。 「おいで、ルイズ」 ルイズはしばらく躊躇った後、グリフォンに乗った。 うー、くそお、やはりタバサと連絡を取っておくべきだった。 グリフォンの速さはわからねーが、2人が飛んで2人が馬とか冗談きついぜ。 ワルドが杖?を掲げ叫ぶ。 「では諸君!出撃だ!」 グリフォンが駆け出す。セッコとギーシュもそれに続いた。 空を見る。置いていかれると思ったが、意外にも馬と大差ない。 半分は鳥じゃねえから、鳥の半分の速度ってわけかあ。ふうん。 車とかあれば楽なのによお・・・ねえんだろうな、多分。 港町ラ・ロシェールは、トリステインから離れること馬で約2日、アルビオンへの玄関口である。 小さな町で、人口は300ほどでしかないが、アルビオンを行き来する人々で常に十倍以上の人間が町を闊歩している。 狭い山道を挟む崖の一枚岩を、土の魔法で住居に加工しているため、昼でも薄暗い。 更にそこから奥へと入った安居酒屋「金の酒樽亭」で、フーケと白仮面の男が話をしていた。 「連中が出発した」 「あんたに言われたとおり傭兵は雇ったよ。」 「で、こいつらは信用できるのかね?」 居酒屋の中はたった今フーケに雇われた傭兵でごった返していた。 「できるわけないじゃない、今前金を叩きつけたばかりよ。 そもそも人を選ぶ時間もなかったし。」 「まあ、そうだろうな。少し喝を入れてやるか」 「いいんじゃない?」 魔法学院を出発させて以来、ワルドはグリフォンを疾駆させっぱなしである。 セッコとギーシュは既に2匹の馬を交換しているが、グリフォンはそのまま頑張っている。 なるほどな、そう早くなくてもスタミナがあるってわけかあ。 しかし、馬って使えねえなあ、腰痛いし。 「ちょっと、ペースが速くない?」 ルイズの口調は、ワルドと雑談を続ける間に元に戻っていた。 「へばったら、置いていけばいい。見た感じラ・ロシェールまでぐらい持ちそうだがね」 「そういうわけにはいかないわ。」 「どうして?」 「だって、仲間じゃない。それに、ギーシュはともかくセッコは重要な戦力よ。」 「そうは見えないがねえ。もしかしてきみの恋人だったりするのかい?」 ワルドは笑いながら言った。 「こ、恋人なんかじゃないわ」 ルイズは顔を赤らめた。そしてちょっと考える。 セッコの能力を知らせておこうかしら? いや、やめておこう。戦闘になってからでも遅くはないわよね。 「そうか、ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」 「お、親が決めたことじゃない」 「僕のことが嫌いかい?」 「そんなわけないじゃない!」 「はは、それは良かった」 わたしが結婚、ねえ。 まだそれに現実味を感じられないルイズではあった。 「もう半日以上、走りっぱなしだ。魔法衛士隊の連中は化け物か」 ギーシュが馬に体を預けて口を開く。 「バカ、ありゃあの動物がタフなんだ、人は関係ねえ。ルイズを見てみろよお。」 それにしても馬って奴は。 「秘密任務なら、風竜の一匹ぐらい貸してくれてもよかったのに。そう思わないかい?セッコ」 テメーがいなけりゃシルフィードの力を借りる予定だったんだよお。 「来なきゃよかったんじゃねえの?」 「そういうわけにはいかないよ。姫殿下を助けるのは貴族の義務だ」 「そうか。」 馬を乗り潰すこと4匹。何とかセッコたちはその日のうちにラ・ロシェールの入り口に着いた。深夜だが。 あれえ?確かにルイズは港町、つってたよな?何だこりゃ。 街並みは峡谷に挟まれている。 「なあ、ギーシュよお」 「なんだい?」 「ラ・ロシェールって港町だよな?」 「そうだけど、どうかしたのか?」 「うう・・・」 ギーシュの答えは要領を得ない。 その時不意に崖の上から、松明が何本も投げ込まれてきた。 その拍子に馬が驚きセッコとギーシュは振り落とされてしまう。 「な、なんだ!、奇襲か!」 ギーシュが怒鳴った。 そこを狙って何本もの矢が夜風を裂いて飛んでくる。 ああ、畜生。なんかあるとは思ってたがよお。 とりあえずギーシュを馬の影に向かって蹴り飛ばし、鞘に入ったままのデルフリンガーで矢を叩き落とす。 「痛っつ、何するんだ!」 ギーシュがわめいている。 「壁でも作って待ってろお。」 潜るルートを考えつつ、再び飛んでくる矢を適当に捌こうとした所で、目の前に小型の竜巻が現れた。 慌てて後ろに跳び退る。 「大丈夫か!」 ワルドの声が聞こえる。大丈夫かじゃねえよ、邪魔するな。 「その様子だと平気そうだね、すまなかった。・・・夜盗か山賊の類か?」 降りてきたワルドが呟く。 ルイズも呟いた。 「もしかしたら、アルビオン貴族の仕業かも・・・」 「貴族なら、弓は使わんだろう」 いや、その理屈はおかしい。つーかそう言うワルドの杖はどう見ても剣だ。 弓や槍持ったメイジも絶対どっかにいるだろ。賭けてもいいぜ。 そんなことを思っていると、聞きなれた羽音が聞こえてきた。 シルフィードかあ? 同時に、崖の上から男たちの叫び声が聞こえ、そしてばらばらと落下してくる。 「おや、風の呪文じゃないか。」 ワルドが微妙な表情になった。そしてシルフィードが地面に降りてくる。 「うおお、どうしたシルフィード」 「きゅいきゅい!」 そして、その上から何故かキュルケが飛び降りてきて、髪をかきあげた。 「お待たせ、ルイズ」 ルイズがグリフォンから飛び降りて、キュルケに怒鳴った。 「お待たせじゃないわよ!何しにきたのよ!」 「助けにきてあげたんじゃないの。朝方、窓から見てたらあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こしてあとをつけたのよ」 キュルケは風竜の上のタバサを指差した。 しかし・・・ タバサはなんとしっかりと服を着込み、荷物まで持っていた。 絶対前もって準備してた雰囲気である。 「ツェルプストー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び?だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。 あなたたちを襲った相手も捕まえたんだし、感謝しなさいよね?」 そう言ってキュルケは誇らしげに笑った。落ちてきた男たちが呻いている。 いや、全部聞いてたから知ってますけどね。 ルイズが心配だから応援に来た、なんて言えないじゃないの。タバサはタバサで何か考えがありそうだし。 「助けは嬉しいが、あまり深入りはしてほしくないな」 ワルドが首をかしげる。 「加減するから、大丈夫よ」 キュルケは笑った。本当は言い寄ってやろうと思ったのだが、先手を打たれてしまった。 そこまで好みじゃないしいいけど。 「あれは、放置?」 タバサが男たちを指差して、シルフィードを撫でていたセッコに言った。 「そんなのもいたな、一応話聞いてやるかあ。」 「情報一番」 敵から話を聞くときはどうするんだったっけな。 確か、えーと、足先から、あー・・・んと・・・ 思い出した、切らなきゃなあ。デルフリンガーを引き抜く。 「よう相棒久しぶり。寂しかったぜ」 「喜べデルフリンガー。」 「どうしたよ」 「ちょっと静かにしててくれよお。」 「ああ、かまわねえぜ」 うー、36等分ってどのぐらいずつ切ればいいんだろ? 適当でいいかあ。どうせ多分死ぬし。 「なー、ちょっと話聞かせてくれるよなあ?」 「おめえらに話すことなんかこれっぽっちもねえよ!」 「そーかあ。それは残念だぜえ。」 「急いでたんだろ?さっさと行ってくれ!」 「まあ、そう言うなよお。な。」 深夜の渓谷に、偶然セッコから一番近い場所に転がっていた不幸な男と、その横にいたもう一人の絶叫と断末魔が響いた。 「あ、相棒ってわりと乱暴だな・・・」 「そうかなあ。」 ちゃんと話聞けたしルイズに報告するかあ。 「仮面の貴族と、貴族じゃない女メイジの2人に雇われた。怪しいけど給金が凄かったから受けた。 つってたぜ。」 「そ、そう。やっぱり貴族派かしら?もう危ないのね・・・」 ルイズの様子がおかしい、震えている。なんでだ? 「ふむ・・・既に情報が漏れているとは予想外だな、なるべく急ごうか。」 ワルドはそんなルイズを抱きかかえて、ひらりとグリフォンに跨った。 「今日はラ・ロシェールに一泊して、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」 ワルドは一行にそう告げた。 「それはいいんだけどよお、ギーシュはどこ行ったんだあ?」 皆が首をかしげる。 すると、矢が数本刺さった青銅のドームの影からギーシュが姿を現した。 「あれ、賊はどうなったんだい?」 「「「「「・・・」」」」」 道の向こうに、ラ・ロシェールの町の灯りが怪しく輝いていた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1657.html
「おや、君達どこかにでかけるのかい?」 広場にやってきたギーシュが、シルフィードに乗ろうとする育郎達を見つけた。 「この娘の家に遊びに行くのよ」 竜の背にのるキュルケが、タバサを指差して答える。 「それなら明日にすればいいいいじゃないか?虚無の曜日なんだし」 その言葉にニヤリと笑うキュルケ。 「それがね…タバサの家に泊まって、次の日はヴァリエールの家に行くのよ!」 「…確か君たちの実家は、宿敵同士じゃなかったっけ?」 「だから……… い い ん じ ゃ な い の !」 「なにがいいのよ…あんたどんな神経してるの?」 シルフィードの傍らに立つルイズが、信じられないと言う目をキュルケに向ける。 「あら、いくらラ・ヴァリエール家でも、客をいきなりとって食べるような真似は しないでしょう?」 「当たり前じゃない。例え相手がツェルプストーでも…って誰が客なのよ!?」 「 わ た し 」 毎度のやりとりを始める二人に、肩をすくめるギーシュ。 「そういえば彼女は?姿が見えないけど、なにかあったのかい?」 育郎がいつもギーシュの隣にいるはずの、モンモランシーが居ない事に気付く。 「ああ、僕の使い魔が見当たらなくてね。手分けして探してるんだ」 「君の使い魔?」 「そう、僕の可愛いヴェルダンデ!そういえばイクローに紹介した事はなかったね? 今すぐに君に見せたいのはやまやまなんだが…そうだ!君たちも一緒に」 「時間がない」 ギーシュの言葉をタバサがさえぎる。 「泊りなんだから別にいいじゃないか…そんなに急ぐものでも」 「私の家はラグドリアン湖の近く」 ラグドリアン湖はガリアと国境を跨って広がっている。対して、ヴァリエール領は ゲルマニアとの国境にあり、ラグドリアン湖との距離は結構なものである。 おかげで、虚無の曜日に日帰りで用を済ます、というわけにはいかず、タバサの家に 泊る事になったのだ。 「…でもちょっとくらいなら」 「なにやってるのよギーシュ!最近使い魔が自分をかまってくれないって泣いてたから、 こうやって一緒に探してあげたっていうのに、私だけに探させるつもり!?」 広場で話し込むギーシュを見つけ、モンモランシーは顔を真っ赤にさせて詰め寄る。 「す、すまないモンモランシー。たまたま彼らを見つけたから、つい……… あ、そうだ愛しいモンモランシー!ヴェルダンデは見つかったかい?」 「いなかったわよ… これだけ探して見つからないんだから、どこかに潜ってるんじゃないの? だったら食事の時間まで待って、その時にでも」 「フッ、僕もそう考えたんだけど…食べたらすぐその場で潜っちゃうんだ…」 がっくりと肩を落とすギーシュ。 「なにか好物でも置いて、よって来るのを待てば?」 見かねて育郎がアイデアを出す。 ちなみこの時タバサは、『そんな奴ほっとけ』と目で訴えていたのだが、残念な事に 気付いてもらえなかった。 「うーん…好物か。ミミズは勝手に食べてるし…」 「そういやおめーの使い魔って何なんだ?ミミズとか、潜るとか…カエル?」 「それは私の使い魔よ」 デルフの言葉に、モンモランシーが腰に下げた袋からカエルを取り出し、手にのせる。 「カエルを持ち歩いてるのか!?」 「あたり前じゃない、私の使い魔なんだし」 「なにか変かいイクロー?」 「い、いや別に…ルイズはカエルが嫌いだから…」 実際のところは、女の子がカエルを持ち歩く事に驚いたのだが、それを説明するのは いろいろと面倒なのでそう答える。 ちなみにこの時タバサは竜から降り、育郎をツンツンつついて、出発をせかして いるのだが、軽いカルチャーショックを味わった育郎には気付いてもらえなかった。 「じゃ、二人のケンカが終る前に戻した方がいわね。ホラ、ロビン」 騒ぐルイズを横目に、袋の口を開いて使い魔に中に入るようにうながす。 「そもそも潜るのは水の中じゃなくて地面だよ。 なんてったって、僕の使い魔はジャイアントモールだからね!」 「モール…モグラかい?」 「相棒ジャイアントモール見た事あるか?始めて見たら笑っちまう程のでかさだぜ」 「そう!僕のヴェルダンデは、見た人間が思わず微笑んでしまう愛らしさなんだ!」 「それは一度見てみたいな…」 「ああ、君が帰ってくるまでにヴェルダンデともう一度仲を深めておくよ!」 「…その必要はないみたいよ」 「へ?」 モンモランシーが指差した先の地面がモコモコと盛り上がり、茶色の大きな生き物が 地面を突き破ってあらわれた。 「おお、ヴェルダンデ…ってあれ?」 膝をついてヴェルダンデを抱きしめようとするギーシュだったが、ヴェルダンデは その横をすり抜けて、モグモグと鼻をひくつかせながら育郎にすりよった。 「っと、よしよし…この大きさはすごいな。モグモグって鳴いてるし」 「だろ?でもこいつが愛らしいたぁ…この坊主もある意味てーしたもんだ」 「そうかな?結構可愛いじゃないか」 「マジか相棒!?だってでっかいモグラだぜ?」 「ヴェルダンデ!何故僕じゃなくイクローに!?」 三者三様のリアクションをとるなか、ヴェルダンデは変わらず、モグモグいいながら 育郎に自分の鼻をこすりつけている。 ちなみにこの時タバサは、育郎の服を引っ張って『とっとと行こう』とアピールして いるのだが、ヴェルダンデが盛大にじゃれ付いているため、育郎は気づかなかった。 「ひょっとして…この子の好きなものでも持ってるんじゃないの?」 「…ミミズをかい?」 モンモランシーの言葉に、ギーシュが怪訝な顔をする。 「そうじゃなくて、宝石とか貴重な鉱石とか…貴方の使い魔は、そういう物が好きで 自分の為に探してくれるって、この前自慢してたじゃない」 「そんなのイクローがもってるわけ…もってないよね?」 二人の視線が育郎に向けられる。 「あ、ああ…そんな、宝石なんて高価なもの」 もってます 先日モット伯との一件で、育郎は宝石を手に入れている。 もしそんな物を持っていると知られたら、当然何処から手に入れたかを聞かれる だろう。しかしモット伯との事を話すわけには行かない。自分だけならまだしも、 ルイズやシエスタにまで迷惑をかける事になりかねないからだ。 だからといって『拾った』等と言うには、あまりに高価な代物である。 「ああ、そりゃ多分俺だ」 どうしたものかと困っている育郎に、デルフが助け舟をだした。 「君が?とてもそうには見えないけど」 「あ、でも確かに背中の剣に手を伸ばしてるわよ」 幸運というべきか、育郎はミス・ロングビルからもらった宝石を、小さな袋に入れ、 デルフの鞘に目立たないようにくくり付けていたのだ。なにせ育郎は使い魔の身、 ルイズの部屋に住んではいるが、自分用の家具など持たない身である。 そんなものをしまう場所など存在しないのだ。 「おめーらみたいな若造にはわかんなくても、こいつにゃ俺の凄さが分かるんだよ。 よかったな坊主、良い使い魔をもててよ!」 「うーん、ひょっとして微妙な錆び具合が珍しいのかな?」 「おめーな…」 ぐりぐり 「…どうしたんだい、タバサ?」 「早く出発を」 「ああ、ごめんごめん…怒ったかい?」 「全然」 「…本当に?」 「本当に」 「………」 頭に杖を押し付ける時に込めていた力を考えると、とてもそうは思えなかったが、 むし返すのもどうかと思い、黙っている育郎であった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2268.html
ゼロと使い魔の書 第七話 広場には既に観衆が集まっていた。ギーシュの取り巻きだけではない。全員入れれば数十人はくだらないだろう。 これから殺し合いが始まるというのに、それを見物しようという神経は理解に苦しむ。果たして、最後まで見とどける覚悟があるのだろうか。 「ほう、逃げずに来たか」 向こうから声をかけてきた。黙っていると、無視された事が頭にきたのか、憎憎しげな視線を一瞬こちらへ向けた。 「諸君、決闘だ!」 ギーシュが声を張り上げる。 それに応える観衆。純粋にこれから始まるショーに期待しているという表情だ。 もしかすると、貴族が平民を手打ちにするところを見物するというのはそう珍しい事でもないのかもしれない。だとしたらろくでもない世界だ。 「僕はメイジだ、だから魔法を使わせてもらう」 ギーシュが何事かを呟き、薔薇の造花を振る。地面から深緑色の人形が生えてきた。 「『青銅』それが僕につけられた二つ名さ。今の僕は『5』体までこのワルキユーレを召還することができる」 自分から能力をばらす。闘いを闘いと認識できていない自信過剰な人間が陥りやすいミスであるが、今の発言にはどこか引っかかるものがあった。 数人の観衆が今の言葉にいぶかしげな顔をしている。何か、自慢以外の意図があったのかもしれないが、今の自分には情報不足だったので深くは考えなかった。 「さあ、平民。かかってきたまえ。二人のレディの心の傷は、お前の屈辱ある死で償ってもらおう!」 青銅の人形が殴りかかってきた。 胸ポケット、それから内ポケットにある果物ナイフの感触を確かめる。全部で六本。 深緑色の拳が射程に入るのに合わせて、胸ポケットから一本抜く。左手の模様が光り輝き、自分の体が羽のように軽くなる。 抜いてから斬るのを一動作で行った。まるで川の流れにさしいれたように、ナイフは軽々と人形の頭を引き裂く。 青銅が土に変わるのと同時に、果物を切る用途でしか作られていないナイフが、その負荷に耐え切れず根元から折れる。模様の輝きも失せる。 直ぐに使い物にならなくなった柄を捨て、新しいナイフを引き抜く。今度は両手に二本ずつ。 「く……ワルキューレ!」 残りの4体が地中の金属を元に練成される。同時に一歩進み四本のナイフを投げる。筋力増加の力は精密動作性も向上させるらしい。 広場に向かう前に時間ぎりぎりまでThe Bookによる反復練習をしていたこともあり、もう狙いが合わないことはなかった。ナイフは空中で正確に三回転し、対象に突き刺さる。 頭をひしゃげさせた青銅の人形4体は活動を停止した。 琢馬は最後の一本を抜く。後は、目の前の金髪の少年だけだ。 少し緊張感が緩まる。途端にラジオの電源を入れたように、観衆の驚きに満ちた声が聞き取れるようになる。 「く、来るな……僕のそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ」 腰を抜かしたらしいギーシュは体を引きずりながら、自分から距離をとろうとしていた。 そんな中で造花の杖をいまだにしっかりと握っているのは、彼の闘争本能が無意識のうちに生にしがみついているためだろうか。 9mの地点に来た。この場で投げると、ナイフの刃は2回転してギーシュの心臓に着地して、彼の人生の幕を下ろさせる。 腕を掲げた瞬間、 「危ないッ!」 甲高い声が観衆の間から響いてきた。 ルイズがギーシュと使い魔の決闘を知ったのは、小皿にとりわけた食事をどうするか考えながらゆっくりと紅茶を飲んでいたときだった。 テーブルを挟んで交わされる会話が耳の鼓膜を振動させる。 「なあ聞いたか?ギーシュと平民が決闘するらしいぜ!」 「しかもギーシュのやつ馬鹿にされたって怒って、相手が死ぬまでやるつもりらしいな」 「自業自得だっていうのに。目をつけられた平民も災難だよな。どこでやってるの?え?ヴェストリの広場?OK分かった」 「そういえば相手はルイズの使い魔だって」 噴出しそうになった紅茶を無理に飲み込み、勢いあまって肺に入ってしまい数秒むせた。 むこうは話に熱中していたのかルイズの存在に気がつかず、そのまま広場から出て行ってしまった。 ティーカップを床に叩き付けたい衝動に駆られながら、近くの給仕に自分の皿を全部下げさせるように命じ、自分も食堂の出口へ向かった。 「まったくあの……馬鹿!」 明日世界が滅亡すると分かっても平然としてそうなタクマが、感情的になって喧嘩を吹っかけるわけがない。大方平民ということで損な役回りを押し付けられたのだろう。 それにしても決闘というのは穏やかではない。どうしてあの使い魔は自分に一言も言わなかったのだろうか。 ルイズは唇を噛んだ。問いの答えは知っている。自分が主人だと、認められていない。使い魔の面倒は主人がみると言ったのに、あいつはその前提条件すら否定したのだ。 息切れも我慢し、広場まで全速力で走る。見ると決闘はもう始まっていたらしい。観客の間から二人の姿が垣間見える。 間に合った。油断しすぎていたのか、ギーシュはなぜか地面に這いつくばっていた。圧倒的優勢である。取りあえずこの状況なら、自分が出ていけばなんとかおさまるだろう。 タクマを呼ぼうとしたが、その言葉は飲み込まざる終えなかった。 ギーシュとタクマの後ろ、二体のゴーレムが音も無く練成されていた。 そしてタクマに殴りかかる。 「危ないッ!」 そう叫ぶのが精一杯だった。 その声と、ギーシュの視線が自分の背後に回ったのに気がつき振り向きざまにナイフを振り、一体を倒す。 しかし、その背後から同じ姿の銅像がのぞいたときは、一瞬、思考が停止した。 その隙に、青銅の拳が自分の腹を抉る。息ができなくなり、体内で何本か骨が砕けたのが分かった。 思わず膝をつくと、青銅の人形はその足を自分の口に突っ込んだ。 「あと1分したら頭を吹き飛ばしてやる。それまでなぶり殺す!」 相手に見下ろされているのが分かった。立場が逆転した。 ギーシュが自分の手札をばらしたときに感じた違和感。あたかも自分が5体までしか出せないように見せかけ、奇襲。 ギーシュはどうあっても自分を殺そうと考えていたらしい。 青銅の人形の足や拳が、まともな骨を順番に折っていく。観客から悲鳴が上がる。まったく無駄な事だった。見たくなければ最初から見なければいい。 ふと顔を上げると、観客の層を無理に押しのけルイズが顔を出した。怒りと恐怖に染まっている。 「ギーシュ!やめなさい!決闘は禁止されているでしょう」 「これはこれは、ルイズじゃあないか。知らないのなら教えてあげよう、禁止されているのは貴族間の決闘だけであって使い魔はその限りではないんだよ。それに、だ。 仮に僕がこいつを殺したところで君は何か困るのか?またサモン・サーヴァントをやればいいだけのことさ。まあどうしてもというのなら、君が頭を下げて彼の命乞いをしたまえ。それで手打ちにしようじゃあないか」 ルイズが頭を下げかけた瞬間、口を挟んだ。歯が折れていたので喋りにくかった。 「命乞いするなよ」 自分の言葉が意外だったか、当の二人だけではなく、騒然としていた観衆も沈黙する。 いつの間にか、自分の左手に革表紙の本が現れていた。手の模様も再び光り輝いている。 ギーシュにダメージを与えられる最後の武器。この世界の人間には読めないということは既に分かりきっていた事だが、勝手に体が反応した。 折れていない左腕で何とか青銅の人形から距離をとり、それを挟んでギーシュと正対する。 「タ、タクマ……!」 「面白い。じゃあ、負けて死ね!」 人形と自分の左手が、同時に突き出される。まるで鏡合わせだった。 人形の左腕は、自分の頭部を狙っていた。今度は本当に致命傷を与えるつもりらしい。自分の左腕も、この距離だとギーシュの頬まで届かない。 だが、そんなことは関係なかった。改めて見てみると、その拳はかつて殴られたスタンドのものとは比較にならなかった。弱弱しく遅い。 革表紙の本がめくれていく感触が左手に伝わる。それを感じながら、思った。 過去の出来事は、乗り越えるものでも打ち勝つものでもない。どんな体験も心に留めておき、未来に向かって「利用」するものなのだと。 ギーシュ・ド・グラモンは確実に目の前の男を殺すつもりでいた。 「面白い。じゃあ、負けて死ね!」 しかし、と自分は頭の片隅で考える。 この平民は、殴られても蹴られても表情を微塵も変えなかった。その闇色の瞳は、あくまで客観的に、冷静に、自分の身に起こる出来事を眺めていた。 きっと、自分は精神面で負けている。どう心の中で言い訳をつくろっても、それは否定できなかった。 杖がみしみしと音を立てる。言いようの無い敗北感に包まれる。 平民は最後の抵抗か、届くはずの無い拳を突き出していた。 が、ここで異変に気がつく。いつの間にか平民の左手には本が握られていた。 本の内容が視界に入る。それはまったく見た事の無い言語であったが、瞬きをした瞬間、それはよく見知った文字の配列に置き換わっていた。それを認識したときにはもう自分の血が宙を舞っていた。 痛みを感じるよりさきに二発目が腹に入った。三発目、四発目以降は、もう個々の攻撃が分からなくなっていた。岩の塊のような拳が、自分の肉体の触れたところをひき肉へと変えていく。 寒かった。そこはどこかの屋根の上で、雪が降っていた。 視線を前に向けると、体に不思議な鎧を付けた無表情な男が、自分に向かって拳を繰り出しているのが分かった。 その男は、拳を振るうと同時に雄たけびを上げていた。 「ドラララララララララララララララララララララララララララァ!」 全身の骨を砕かれ、自分は後方へと吹っ飛ばされた。しばらく浮いていた後、地面に体がこすれて停止した。 そこで遅れて、自分がいるのが広場だと思い出した。 「……参った」 混濁する意識の中で、それだけは言わなければならないような気がして、呟いた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/987.html
味も見ておく使い魔-3 ルイズは顔のデッサンを狂わせた露伴を連れて大学の講義室のような部屋に向かった。 次の魔法の授業はそこで行われるのだ。 ルイズと露伴が中にはいって行くと、先に教室にいた生徒たちが一斉に振り向いた。 そして露伴の顔を見て唖然とする。 その中にブチャラティもいた。周りを女子が取り囲んでいる。キュルケもいた。 皆、目から『恋する乙女ビーム』をブチャラティに発射している。 (さすがブチャラティ!普通の平民にできないことを平然とやってのける!) (そこにシビれる!あこがれるゥ!) 「む、すまないがみんな。ルイズがきた。オレは彼女のところに行かなくちゃあならない」 「あ、あんたなに…」 ルイズの発言は別の男子生徒の絶叫で打ち切られた。 「たかが平民のくせして!僕のモンモランシーに手を出すな!」 「ギーシュ、おまえモンモランシーと付き合っていたのか?」 「君はケティと付き合ってたんじゃなかったのか?」 教室内が騒然となる。 「君に『決闘』を申し込む!場所はヴェストリの広場!時間はこの授業のあとだ!」 「別に私はあなたのものになった覚えはないわ」 「いいぞ!生意気な平民をブッチめてやれ!」 「ギーシュ!あなた大人気なくてよ?」 「僕の(脳内の)彼女をとられた恨みを晴らしてくれギーシュ!」 唖然としているルイズを除いて、教室内にいる人の行動は見事に3つに分かれていた。 女子生徒のほぼ全員はブチャラティを擁護する。 男子生徒のすべては半ベソをかきながらギーシュを煽り立てる。 そして約一名、スケッチしている。 この『サバイバー』が発動したような混乱は、教師のミセス・シュヴィールズが教室に入り、生徒全員の口に赤土の粘土が押し付けられるまで続いた。 「今は失われた系統である『虚無』をあわせて、全部で五つの系統があることは皆さんも知ってのとおりです…」 ミセス・シュヴィールズの講義が続く。ルイズの使い魔たちは近くの床に座って興味深そうに話を聞いている。 ルイズは、使い魔に椅子に座らせるつもりはなかったし、そもそも学生用の椅子では小さすぎて、この二人の体格では座れないのだ。 ルイズはブチャラティのことが気になって、講義が耳に入っていなかった。 (なによ、キュルケなんかといちゃついて!こいつ私の使い魔って自覚があるのかしら?) (それにメイジと決闘?平民が?怪我じゃすまないわ!) 「ねえ、ブチャラティ。あなた決闘を受けるつもり?」 自分の使い魔に小声で話しかける。 「そのつもりだが?受けなけれは収拾がつかないだろう」 「それよりもだ。君にひとつ質問がある。 メイジには得意な魔法を冠した二つ名をつけるそうじゃないか。 キュルケは火の『微熱』、シュヴィールズは土の『赤土』だそうだが、君の『ゼロ』というのはいったいなんだ? キュルケ達に聞いても笑ってごまかされてしまった。」 「なんだっていいでしょう!」 講義中に叫んだので、ルイズは先生に見咎められてしまった。 「ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 「おしゃべりする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」 「え?わたし?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 「わかりました。やります」 「ルイズ。やめて」 ルイズは、蒼白な顔で懇願するキュルケを無視して立ち上がる。 そして緊張した顔で、つかつかと教室の前へ歩いていった。 「君、これは好意で言っておくが、命が惜しいなら何か物陰に隠れたほうがいいぞ」 ロハンが机の下に隠れながら話しかけてきた。 よく見ると、他の生徒も椅子や机の下に隠れている。 「どういうことだ?」 その瞬間、教壇からすさまじい爆風が破片とともに襲ってきた。 「おおおおお!」 「も、ものすごい破片飛沫の広がりとその爆発のスピード!」 「床に伏せるか!」 「それとも飛んでよけるか!」 「だめだ!どうしても広がり飛んでくる破片のどれかに当たってしまう!」 「これしかない!」 『スティッキィ・フィンガーズ!』 服についたほホコリを掃いながらブチャラティはつぶやいた。 「つまり、彼女は魔法成功率が『ゼロ』だから『ゼロのルイズ』と呼ばれているわけか…」 「悪いことを聞いてしまったな…」 岸辺露伴はこの惨状を冷静に観察していた。 ルイズの爆発の被害は、その規模と比べて小さなものにとどまった。 ブチャラティは無傷。 爆心地にいたルイズも、服はボロボロだがなぜか無傷。 ミセス・シュヴィールズは倒れているが、 ピクピクと痙攣しているから死んではいないだろう。 そのほかの被害は、教室が『靴のムカデ屋』が爆発したように滅茶苦茶になっているほかは、ガラガラ声の小太りなメイジが一名、脳を半分シェイクされた程度で済んだ。 先生が気絶しているので、授業は必然的にお開きとなっている。 ブチャラティと生徒達はぞろぞろと部屋の外に向かっている。 おそらく『決闘』を見物しに行くのだろう。 「ロハン、あなたはここをきれいにしておいて」 ルイズがあせったように話しかけてくる。事実あせっているようだ。 「ここの掃除は君自身がすべきじゃないのか?」 「それはそうだけど!私はブチャラティを止めてくる!このままじゃ彼殺されてしまうわ!」 そういい捨てて、もうすでに姿の見えないブチャラティを追いかけていった。 「僕も『決闘』を見たいんだがな…」 掃除をするか、無視して見物にいくか考えていると、誰かに右腕の袖をつかまれていた。 「ん?なんだ?」 振り返ると、青い髪の少女がいた。 「手伝う…」 「手伝ってくれるのはありがたいが、『決闘』は見なくていいのか?」 「『決闘』に興味はない」 「それよりもあなたはしばみ草を『イケる』といった」 「だから、仲間」 手を差し出してくる 「あ、ありがとう…」 そういいながら僕は彼女と固い握手を交わした。 To Be Continued... 戻る 味も見ておく使い魔-2に戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2292.html
9話 ルイズが朝食の席につくと、他の生徒はおもむろに一席分ルイズから間を開けた。 ルイズに対する嫌がらせというわけではない。 教師たちはそれを重々承知しているので、あえて何も言わなかった。 そしてルイズ自身もそれを教師たちから口を酸っぱくして言われていたので、何も言わなかった。 言わない代わりにため息一つついて、他の生徒たちと一緒に食事の前のお祈りを口にした。 ホワイトスネイクとギーシュが決闘した日から、もう一週間がたった。 ギーシュはすっかり元通りになって、モンモランシーとよりを戻そうと必死になっている。 ただ、ギーシュはルイズには近づこうとはしない。 常に一定の距離を保っており、そこから決してルイズに近づこうとしないのだ。 そうするのはギーシュだけではない。 他の生徒もルイズには近づこうとしなかったし、 加えてこれまでのようにルイズを「ゼロ」と呼んでバカにすることもなくなった。 無論、ホワイトスネイクのせいである。 ワルキューレを簡単にやっつけてしまったあの投げ技や身のこなしは多くの生徒が目にしていた。 その恐ろしい体術の餌食になるのが、みんな怖かったのだ。 ただ二つの例外として―― 「あら、ルイズ。今日は自分で起きられたのね」 ルイズがむっとして振り向くと、いつもの笑みを浮かべたキュルケと相変わらず無表情なタバサが立っていた。 決闘以後、ルイズの近くにいるのはキュルケとタバサだけだった。 「ふん、当然よ。わたしだってもう16歳なんだから、自分で起きるぐらいできるわよ」 そう言ってぷいと顔をそむけると、また食事を始める。 「ホワイトスネイク……だっけ? あなたの使い魔。彼、今日もいないのね」 そう言ってキュルケはわざとらしくため息をつく。 初めてホワイトスネイクを見て、そして決闘でワルキューレを次々と撃破していく ホワイトスネイクを見たときは「なんかちょっといいかも」とか思っていたキュルケだったが、 一週間も見ないうちにその熱はさっさと冷めて、今は絶好調五股掛けである。 「時代は筋肉質でタフな男よ!」とか思っていたのも、キュルケからすれば遥か昔の話。 女の子は熱しやすく冷めやすいと言われるが、キュルケはその中でもとびきりなのだ。 なのにホワイトスネイクに会えないことでため息をついたのは、 「ちょっとキュルケ! まだあんたあいつのことを狙ってたの!?」 ルイズがいちいち本気にするのが面白いからだ。 「ウソウソ、冗談よ。あなたってすぐに人の話を本気にするから飽きないわ」 「うぅ~~、そうやってあんたは人の事をバカにして!」 くすくす笑うキュルケと声をあげて怒るルイズ。 「好対照」 と、二人を見ていたタバサが評価した。 「ま、それはいいとして……ちょっとおかしくない? 召喚されて2日と立たないうちに使い魔が姿を見せなくなるなんて話、聞いたこともないわよ?」 キュルケの言うとおりだった。 ホワイトスネイクは決闘の日以来、一度もその姿を見せていないのだ。 「ルイズは使い魔に見限られたんじゃないか」と噂する生徒もちらほら出てきているくらいだ。 しかし、その噂は未だに噂の域を出たことはない。 ホワイトスネイクが「その場にいなくてもそこにいる」ことは、すでに多くの生徒たちに知られていたからだ。 ホワイトスネイクを「亡霊」だとか「悪霊」だとか呼ぶ生徒だって少なくはない。 だからホワイトスネイクがそばにいなくとも、ルイズはホワイトスネイクの主人であると暗黙のうちに認められていたのだ。 ホワイトスネイクが姿を見せなくなった本当の理由については、生徒たちは何も知らない。 「ルイズを呪い殺すための道具とか材料を集めている」とか、 「墓場を掘り返しては屍肉を食い漁っている」とかとんでもないデタラメを言っているばかりだ。 だがルイズは知っていた。 ホワイトスネイクはルイズ自身が本気でホワイトスネイクに立ち向かおうとしたときに現れる。 きっとそうだ、とルイズは「なんとなく」分かっていた。 根拠はない。 ただ、ホワイトスネイクは立ち向かってくる自分を無視したりはしないだろう。 ルイズはそれだけは、ただ「なんとなく」理解していた。 だから、立ち向かう。 決行は今夜。 今度はギーシュの魔法の才能は手元にない。 あるのは失敗魔法しか生み出せない「ゼロ」の才能だけ。 だとしても、立ち向かわないわけにはいかない。 あれだけの屈辱を受けて、言われたい放題言われて、それで黙っていられるほどルイズのプライドは安くない。 絶対に後悔させてやるんだから。 絶対に、やっつけてやるんだから! あの敗北から一週間、ずっとルイズはそう思い続けてきたのだ。 「ルイズ? 聞いてるの?」 「……え? なに?」 きょとんとして聞き返すルイズに、キュルケはため息をついた。 「だから、明日はフリッグの舞踏会でしょ? あんた踊る相手は決まってるの?」 「決まってないわよ」 即答するルイズ。 そんなこと考えてる余裕があったらホワイトスネイクに勝つ方法を考えた方がずっとマシだからだ。 「はぁ~……思ったとおりね。あんた、男っ気が全然無いものね」 「男の子を取っ換え引っ換えしてるあんたに言われたくないわ」 キュルケの言葉にむすっとしてルイズが返す。 「ま、あなたはそんなに美人じゃないからいいけど……タバサまで相手がいないのはどうなのよ?」 そう言ってタバサに声をかけるが、 「興味がない」 タバサの答えもルイズと似たようなものだった。 「……あなたたち、もうちょっと男との付き合いを考えた方がいいわよ。 タバサはかわいいからそのうち男の方から寄ってくるでしょうけど、 ルイズなんて、あんた将来貰ってくれる人がいなさそうじゃないの」 「な、なんですってえ!?」 「本当のことじゃない。怒りっぽくて、すぐ八つ当たりする。 あんたと一緒になったら神経すり減らしちゃうわよ」 「そ、そんな、こと……」 反論しかけたが、ルイズには思い当たるフシがありすぎた。 自分の父親は自分の母親と口論になったら絶対勝てないし、 二つ上の姉の婚約者はいつも姉にあれこれ指図されていて、 しかも会うたびにやつれているようだった。 父親はまだしも、姉の婚約者の方が離婚せずにいられるか、いや、結婚まで持つかどうかさえ怪しい。 自分は、どうだろうか……。 「なーんて、ね」 不意にキュルケが声を上げる。 「へ?」 「別にいいんじゃない? 踊る相手がいなくたって。 それに踊る相手がいないぐらいで将来どうこう、ってわけじゃないし」 「あ、あんた、またわたしをからかったのね!?」 キュルケの真意に気づいたルイズが顔を真っ赤にして怒る。 だがキュルケはお腹を抱えて大笑いすると、 「だから言ってるじゃない。あんたがすぐ本気にするから、それが面白くって!」 「もう、いい加減にしなさい! タバサも見てるばっかりじゃなくて何か言ってやりなさいよ」 話を振られたタバサは少し考えた後、 「いつも通り」 それだけ言ったのを聞いてキュルケはまた大笑いし、ルイズはまた声をあげて怒った。 まるでルイズが彼女二人以外に避けられ続けているのがウソのような、そんな光景だった。 時は三日前の夜にさかのぼる。 場所はトリスタニアの裏通り。 物騒な連中が物騒な仕事を求めて歩き回る、一般人が決して近づいてはならない場所。 そこでの、とある事件だ。 「な、なな、なんだ、お前は! いい、一体何しやがった!!」 ガタガタと震える傭兵の前には、すでに物言わぬ死体と化した彼の仲間が転がり、 そのさらに先に一人の男が立っている。 彼の仲間は、みんな穴ボコのチーズみたいに、全身に風穴をあけられて死んでいた。 彼の目の前に立つ一人の男がした「何か」によって、声を上げる間もなく死んだのだ。 そしてその男は、実に奇妙ないでたちをしていた。 頭には緑色の目出し帽とゴーグル、 そして羽織ったマントの下にはウロコのような模様が浮き出た全身ジャージを着ている。 もちろんハルケギニアにはジャージなんてものはないから、この男以外にはそれがジャージだとは分からない。 これだけでもホワイトスネイクとどっこいの奇妙すぎる格好だが、 取り分けて奇妙なのは、この男が靴を履かないで、その靴を靴紐で足首に結び付けていることだった。 「『何しやがった』と聞かれても……説明する意味がないな。 どうせお前らには……『見えない』だろうしな」 「な、何だと!」 「まあいい……それより、聞きたいことがある。 お前、誰に雇われた? 『同業者』に襲われるのはこれが初めてなんだ。 なるべく他の奴らがやりたがらない……ハードな『仕事』を選んでたのにな…」 「く、くそッ!」 傭兵が毒づいて逃げる。 「逃げるのか……行ってもいいぜ。ただし……」 ドンドンドンドンッ! 空気を切り裂いて飛来した無数の「何か」が傭兵の両足を蜂の巣にした。 「洗いざらい喋った後でならな」 傭兵が悲鳴をあげて倒れる。 男はそれにゆっくりと近づいた。 「なあ……教えてくれよ。一体誰に指図されたんだ?」 「し、知らねえよ!」 「そうか」 男はそれだけ言うと、 ドンドンドンッ! 今度は男の右腕を蜂の巣にした。 悲痛な呻き声が再び裏通りに響く。 「こっちは鉄クズが少ないからな……あんまり弾の無駄使いはしたくねーんだ。 だから……さっさと教えてくれるか?」 「し、知らねえ! 本当に知らねえんだ! 見たこともねえ女だった……この街の女じゃねえ! それだけは確かだ! そいつに500エキューで雇われたんだ! お前を殺して来いってな!」 「そうか」 ドグシャアッ! 「喋った後は、さっさと『あの世』に行ってきなよ」 男の意志で振り下ろされた見えない「何か」が、傭兵の頭蓋を粉々に粉砕した。 「しかし……面倒だな。 何で顔も知らねー上にこの街のヤツでもない女に狙われるんだ? 殺しすぎたのが……いけねーのか? 『仕事』中の俺を見た奴は全員殺ってるハズなんだがな……」 「別にお前は何も悪くはないよ」 一人呟く男に突然かけられた、艶のある声。 男は声のした方向に素早く目を向ける。 「何故ならそいつらを雇ったのはこの私だからね」 そこには、一人の女が立っていた。 「お前が……こいつらを差し向けたのか」 「その通り。『魔法殺し』と名高き傭兵の手腕、是非ともこの目で見ておきたくてね。 それで運のないそいつらに実験台になってもらったのさ」 女はフードを目深くかぶっており、その表情や顔立ちはうかがえない。 だが女の何かを楽しむような口調からは、恐怖や戸惑いは感じられない。 言葉通り、最初から死んでもらうつもりで傭兵たちを雇っていたようだ。 「そうか。……だがそれで、オレが納得すると……思うのか? 命を狙われて黙っているほど……オレは安くはないからな。 オレをナメてるんだったら……お前にもここで死んでもらう……!」 男の言葉と同時に、男の背後の「何か」がゆっくりと動いた。 「ふふふ……そう殺気立つんじゃないよ。 わたしはお前を雇うつもりでいるんだからね」 「……いくらでだ?」 男の発する殺気はまだ緩まない。 「2000エキュー、と言ったら?」 「2000エキューだと!?」 男の声色が変わる。 2000エキューと言ったら立派な家と森付きの庭が買えるぐらいの金額だ。 破格なんてもんじゃない。 あまりにも、馬鹿げている金額だ。 「どうやら態度が変わってきたようだね」 くすくす笑いながら女が言う。 「2000エキューか……2000エキュー……。 ……それで、一体なにをさせる気だ?」 「そんなに難しいことじゃないわ。子供を一人さらってくるだけよ」 「それで2000エキュー……だと?」 「ええ、何だったら前金で1000エキューあげてもいいわ」 「前金で、1000エキュー!?」 「どうする? この『仕事』……やるのか、やらないのか?」 「……まず、詳しい話を聞かせてもらおうか」 それが男なりの、1000エキュー、2000エキューを前にしての、精一杯の慎重さだった。 彼が感情だけで動く男だったなら、「仕事」の内容も確認せずにこの場で「仕事」を受けていただろう。 「なかなか利口で助かるわ。では明日のこの時刻に、またこの場所で落ち合いましょう。 詳しい話はそこで教えるわ」 「それでいい。だが……」 「だが、何?」 「あんたの名前を……まだ聞いていないな」 「おや、そう言えば名乗っていなかったね。すっかり忘れていたよ。 私はシェフィールド。 ではまた明日、いい返事を期待しているよ、『ラング・ラングラー』」 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1242.html
頭を抱えて寝てしまいたいけど、わたしにはそれも許されない。 うう、落ち着かなきゃ。クールに、クレバーにならなきゃ。頭を冷やそう。涼しい夜風で冷静さを取り戻そう。 窓を開けると、中庭にはまだキュルケ達がいた。ミキタカとぺティが近づいて何か話してる。なんだか妙な取り合わせ。 何か動く影が見えると思ったら、ミス・ロングビルが宝物庫の壁を歩いていた。世の中にはいろんな趣味を持ってる人がいるものね。 「ねえルイチュ、なんで怒ってんのさ。せっかくルイチュのために集めてきたのに」 こいつ、まだ分かってない。 「あのね、罪の意識とかそういう問題はとりあえず置いておきましょう」 「うん」 「あなたはバレなければと言ったけど、本当にバレないでいられると思う?」 「うん」 「ここがどこか知ってる? トリステイン魔法学院。石を投げればメイジに当たるの」 「うん?」 「大切な物が無くなった。誰かが持っていったに違いない。よし、とりあえず魔法で探してやれ。こうなるわよね、当然」 「……うん」 「きっと犯人はすぐに見つかるわね。使い魔はその場でバッサリ、ご主人様はよくて強制退学ってとこかしら」 グェスは貴金属の類を手に立ち上がった。顔色は真っ青だけど同情の余地は無い。 「ちょ、ちょおっと出かけてきまァす……」 「今夜中に全部返してきなさいよ」 人のいる部屋から盗るくらいだから、人のいる部屋に返すこともできるでしょ。 もし返せなかったら……見つかったら……考えるのはやめた方が賢明ね。ああ、胃が痛い。 感覚の共有ができず、秘薬の材料を探せず、あの小心っぷりじゃ護衛なんてまず無理。 できることは他人の物を掠め取ってくること……なんて使いを魔召喚してしまったんだろう。 ゼロにはあれが相応しいとでも言うつもり? あれじゃゼロより悪い、マイナスよ。 グェスが小物の類をかっさらっていき、部屋には一振りの剣と鍵、それに対応する謎の包みが残された。 さすがの大泥棒も一度に返すってのはできないみたいね。 そりゃそうでしょうよ。剣なんて持ってうろついてたら、ただでさえ犯罪者風なのが不審者丸出し。 そもそもどうやって盗んだんだか。警吏じゃなくたって捕まえるわ、まったく。 ベッドの上に剣を投げた。鍵と包みは……ふうむ。 鍵は複雑な形をしている。包みも立派なもんね。けっこう価値があるものかも。 てことは中身は……いやいやいや、他人の物を勝手に開けたりしたら怒られるでしょ。 ダメダメ、これはグェスが来るまで隠しておくの。 そんな思いとは裏腹に、なぜかわたしは手の中で鍵をいじっていた。 ダメダメダメ、本当にダメ。いくら気になるからって言っても……気になるのよね、たしかに。 返す前にチラッと見るくらいは許されるんじゃないかしら。いや許されないでしょ。 でも犯罪か何かに関わってくるものだとしたら大変じゃない? そうよね、これは貴族としての義務感というべきものよ。 もしかしたら、この包みが原因で人死にが出たり、大騒動が巻き起こったりなんてことも。 ……よし、ちょっとだけ開けてみよう。ちょっとだけ。 ごく自然なふうを装うため、鼻歌交じりで窓を閉め、カーテンを引いた。 外ではタバサを中心に四人と一匹が勉強会をしている。ああ真面目なこと。 ミス・ロングビルは壁の上で地面と平行になって悩んでいるみたい。あの人も謎ね。 鼻歌は二番に差し掛かった。部屋の扉から顔を出し、左を見て、右を見て、誰もいないことを確認する。 よし。ああ、ちょっとドキドキしてきた。何が入ってるのか予想もつかない。 開けた瞬間襲いかかってくるものだったりしたらどうしよう。 鍵を差込み、捻り、包みが解けて……あ……ああ、ああああ、こ、これは! 風の噂で聞いたことがある。偉大なメイジが召喚した恐るべき異世界の書物があると。 その本を読んだ男性は情欲を掻き立てられ、一晩に五回六回は平気の平左だという。 これが、その本。異世界の文字なんて読めたものじゃないけど、それでもわたしには分かる。 そもそもこの本に文字なんて必要がない。どこをめくっても裸の女性しか出てこないんですもの。 なんという写実的な絵柄。美しい色彩。紙の手触りもすっべすべ。すごい。これはすごい。 ううむ……ぺらっ……うううううむ……ぺらっ……激しいわ。なんて情熱的なの。 んん? この黒ずみ何かしら……邪魔ね。よりにもよって重要なところにばかり張り付いてるけど。 唾かけてこすってみたらどうだろ。でもこれ一応他人の物なのよね。 こんなスゴイ物、失くした人は必死で探してるかもしれない。早いトコ返した方が……おおおお! か、か、か、絡みもあるのね。なんて実践的な。おおお、あんなに脚を! そんなとこ舐めるの!? くうう、返す返すもこの黒ずみが憎い! 憎い! 何よこれ、何なのよ。 ありのままの真実を明らかにするべきじゃないの? 人間、隠さなきゃいけないものなんてないはずよ? そのままを曝け出す、その姿勢に美が込められているんじゃなくて? それを、この黒ずみ! 指の腹でこすっても消えない! これが無ければ! これさえ無ければ! もっといいのに! いいにきまってるのに! いいのよ! いいわ! いいんだって! 「おい、ルイズ。何を見ているんだ?」 魔法で消すってのはどうかしら。そうだ、ミキタカが虚無とか言ってたっけ。 「その本もしかして……」 虚無。無。つまりは消失させるってことよね。てことはこの黒ずみも消せるんじゃない? あーあ、わたしが虚無の使い手だったらな。こんなのちょちょいのちょいなのに。 「なあルイズ。それキュルケの本じゃないのか」 「あ、これキュルケの本だったのね。教えてくれてありがとうマリコルヌ……え?」 「どういたしまして……え?」 な……ナアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアァァァァアアアアアアァァアアァアアァアアアアアァアアーッ!? 「な、な、な、な、な、な、なんで、なんでマリコルヌがここにいるのよ!?」 マリマリマリマリマリマリマリマリマリコルコルコルコル……。 「ごごごごごごごめん、ちょ、ちょっと待ってて」 「うん」 水差しからコップに水を一杯注ぎ、一息で飲み干す。まだ足りない。もう一杯飲み干す。 まだまだ足りない。水差しに直接口をつけて全部飲む。 口の端からこぼれた水を袖口で拭って、ぐう、少しは落ち着いたか。 「マリコルヌ! 何の用があってここに来たの!」 「君の使い魔を男子寮で見たから教えてやろうと思って」 「そ、それはありがとう。でも、でも、でもね、女性の部屋にノックも無しで入ってくるなんて!」 「ノックはしたよ。中からいいわよって声が聞こえたから入ってきたんだけど」 「あ、ああそう」 逃げ場無し。 ええと、ええと、ええと、ええと。どうしようなんて言い訳すればいいんだろう。 「勘違いしないでよね。わたしはあくまでも学術的な好奇心からこの本を読んでいたの」 我ながらあまりにも白々しい。 「でも、キュルケの本だろ、それ。嫁入り道具とかいって見せびらかしてた本」 「ええっとね、あのね、あれよ。女の子には色々あるの。殿方が踏み込んでいい領域じゃないの」 「そうなのか」 「そうなのそうなの。ね。分かったらちょっと一人にしてもらえる?」 「そうなのか……」 背中を押しやって無理矢理外へ追い出したけど、それで何が解決するってわけじゃない。 そんなことわたしにだって分かる。マリコルヌはこれっぽっちも信じちゃいないに決まってる。 わたしがマリコルヌの立場だったら絶対に……そう、言いふらす。 なんてこと……よりにもよってマリコルヌに見られるだなんて。 わたしをからかうことに血道をあげてるデブちんに目撃されるなんて。 もうダメだわたしは終わりだおしまいだ明日からあだ名はエロのルイズだ人の本盗んでエロスに走るエロのルイズだ。 キュルケはなんだかんだで懐が広い。少し性的な言い回しを使うとすればお尻の穴が大きいから、貴重な書物であっても、戻ってさえくれば内々で済ませてくれるはず。 グェスとわたしが頭を下げればきっと許してくれるだろう。 でもこの際それは問題じゃない。キュルケがわたしをからかうなり嫌味を言うなりして矛を収めてくれたとしても、マリコルヌは面白おかしく吹聴する。確実に。噂は広まる。絶対に。 で、わたしはゼロのルイズからエロのルイズにランクアップするってわけ。 どう? こんな人生って楽しくない? ええ、全っ然楽しくない。あははははははは……。 「どうしたのルイチュ。面白そうね」 脳よりも先にわたしの背骨が指令を出した。 扉が開き、グェスの声が鼓膜を振るわせたその瞬間、彼女の顎先を足の甲で蹴り抜いていた。 ベッドに倒れたグェスに対し、追い打ちの踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ……。 「ルイチュちょっと待って! 痛い痛い、痛いって!」 「痛いからやってんのよ馬鹿犬!」 まだおさまらない。引き出しを開け、中から鞭を取り出した。 ベッドの上、怯えた表情でこちらを見上げるグェスが嗜虐の炎に油を注ぐ。 「ほら、見て見て。何も無いでしょ」 両手を開いてこちらへ見せる。 「全部返してきたの。これも、これも。全部元あったところに返すから」 ベッドの上の剣を胸に抱き、包みと鍵、中の本も引き寄せた。 「だから、さ。もう怒んないでよ。あたし達お友達じゃない。ね?」 「友達?」 鼻で笑ってやるわよ。何が友達? 馬鹿にしてんの? 「あんたにとっての友達ってのは何? いざという時は見捨てて? それ以外も迷惑かけっ放しで? 都合のいい時だけ友達で?」 「ルイチュ……」 「親友に置いてかれたって? そりゃ置いていかれるわね。あんたみたいに信用できないやつ、誰が連れていくっていうのよ」 鞭の先をグェスの顎に突きつけた。 グェスは悲しそうな、悔しそうな顔をしていたけど、そんなものがどうだっていうのよ。 「馬っ鹿じゃないの? 使い魔と主人が友達同士なんてお目出度いこと考えてるわけ?」 「そんな……」 一振り、二振り、軽快なフットワークでわたしの鞭が避けられた。 「避けるなッ!」 「落ち着いて! 何かよく分からないけど冷静になってルイチュ!」 グェスは扉ににじり寄っていく。逃がすわけないでしょ馬鹿犬。 杖を手元に……あれ。杖を……杖、杖、杖。 「ひょっとしてこれ探してる?」 どういうわけか、わたしの杖はグェスの手元にあった。あ、グーグー・ドールズか。 「あんたって人は、やることといえば泥棒ばっかり……その杖、こっちに寄こしなさい」 「魔法使わない?」 「使わないと思う?」 グェスがそろそろと後ろ手で扉に手をかけた。わたしは床を踏み抜く勢いで一歩踏み出す。 「グェス!」 「これ返してくるから! また後でねルイチュ!」 最後に投げつけた乗馬鞭は見事に扉へ突き刺さった。うおっ、すごい。怒りは人間を強くするのね。 グェスの馬鹿犬が逃げ、行き場を失くした怒りだけが残された。 「あの馬鹿! 馬鹿! 大馬鹿犬!」 首輪をむしりとって壁に投げつけた。馬乗りになって枕を殴りつける。 「役立たず! 無能! 使い魔失格よ! 帰ってきたって入れるもんですか!」 空になった水差しを床に叩きつけ、グェスが逃げた扉を平手で何度も打った。 「全部グェスのせい! ぜえええんぶグェスのせい!」 さっき閉めたばかりの窓を開け、外に向かって喉が痛むまで吼えた。 「馬鹿いぬウウウウウウウウウウウウウウウウ! 帰ってくるなアアアアアアアアアアアアアア!」 眼下ではさっきの面子に加えてモンモランシーと大釜がいた。見るたびに数が増えている。 ミス・ロングビルが壁の上から滑り落ちたみたいだけどそれが何。 皆、呆気に取られてわたしの方を見上げている。だから? え? 「何見てるのよ!」 力任せに窓を叩きつけ、ついでに鍵もかけ、扉にはつっかえ棒をかけ、グェスが帰ってきても入れないようにし、着替え、ランプを消した。 雲の無い空には赤い月と青い月。わたしはベッドの上で一人ぽっち。 暑くないのに寝苦しい。眠いのに眠くない。何度となく寝返りを打つ。どんよりとしたまどろみがわたしを包む。 さっさと逃げて、主に恥をかかせて、他人の物盗んで、主に迷惑をかけて。無能。駄犬。 ちょっと言いすぎじゃない? 召喚されたばかりで戸惑っているのよ。 何が言いすぎよ。使い魔が主人に仕えるのは義務よ、義務。 そんなことないわ。異郷から無理矢理呼び出したのよ、彼女の持つ物全てを捨てさせて。こっちだって仕えるに値する努力をしなくちゃ。 なんでわざわざそんなことしなきゃいけないの。餌あげて、寝床あげて。それだけでもありがたいでしょ。 彼女は人間よ。しかも友達だと言ってくれた。そんな言い方ってないわ。 平民よ。しかも無能な。口先だけの役立たずで臆病者。わたしを守ってくれなかった。 守ってほしかったの? 当然よ。それは使い魔がまず第一にすべきことでしょ。 使い魔に守ってもらう必要なんてないでしょ。使い魔が臆病なら、あなたが使い魔を……友達を守ればいいじゃない。 本末転倒ね。だったら誰がわたしを守るっていうの。 何遍も何遍も言ったでしょ。あなたのことはわたしが守る。 はァ? もう少し素直になるべきね。よぉく知ってるでしょ、喧嘩するより仲良くした方が楽しいって。 あなたがそんなだからグェスがつけあがるんじゃない。えっらそうに、何様よ。ちょっと可愛い子を見るとすぐに鼻の下伸ばしてるくせに。 い、いや、あの、それはね、あくまでも本能というものなのよ。自分ではコントロールできないものなの。 いっつもいやらしいことばっかり考えて。マリコルヌにまで見られて……。 「それは……」 自分で出した声で目が覚めた。ああっと……何考えてたんだっけ。我ながらぼんやりさんね。 わたしはやっぱり一人で寝ていて、隣には誰もいない。夜の冷えが火照った頭を撫でていく。 怒りを発散するためにした数々の所業は、グェスへの怒りを静める効果があったものの、その分愚かな自分が浮き彫りになり、自己嫌悪の情が膨らんでいく。 結局全てわたしに返ってくるのよ。 グェスが帰ってこなければ水差しや鞭を片付けるのはわたしになる。 馬鹿はわたしだ。悪い状態をより悪くしてる。 無能もわたしだ。ゼロ以下の無能はいない。 主人失格もわたしで、犬……いや、犬より悪い、犬以下のモグラもわたしだ。 グェスを扱えないのもわたし、本に熱中したのもわたし、物や人に八つ当たりしたのもわたし。 そこまで知っていて、それでもわたしはグェスが戻ってくれば怒鳴り散らすんだろう。わたしは救えない。 枕を手に取り、扉を押さえる棒に向かって投げつけた。くるくると回って見事命中。枕もろとも棒は倒れ落ちた。 少しだけスッとした。わたしは怒った顔のまま床につき、枕無しで眠りに落ちた。ばーか。みんなばーか。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1746.html
年の頃三十半ば、丸い球帽を被り、緑色のローブとマント姿の一見すれば聖職者に見える姿。 高い鷲鼻に、理知的な色をたたえた碧眼。帽子の裾からは、カールした金髪が覗き揺れる。 彼、オリヴァー・クロムウェルは、たった今のワルドの言動に激昂していた。 「子爵ッ! ワルド、貴様裏切ったか!」 クロムウェルの眼前にて、その言葉に対しワルド子爵は、杖を抜き放った。 杖は青白く輝く。 『エア・ニードル』 ワルド得意の必殺の白兵戦魔法。 「ハハハ。僕はどちらの側に付いたのでも無い」 「では今更に、全てを己が手にしようと過剰な野心に獲り付かれたか」 「下らないな。実に下らない。 何事も力に結びつける、その愛無き心。欲しか見ぬ心。 僕が選んだのは、つまりは第三の選択さ。“愛”に生きる! 『ギーシュさん』の元で。王党派も貴族派も無い、ただ僕のこの目を覚ました純粋なる“愛”の側に立つ」 「寝言を!」 クロムウェルには、その言葉、妄言にしか思えなかった。 「クロムウェル。今からでも遅くは無い。共に来ないか? かの人の愛は全てを許したもう。そう、王命にも勝る許しだ。 ブリミルの名の元の誓いにも価する許しだ」 突然の呼び捨ても気にならぬ程に、そのワルドの表情はクロムウェルが一度も見た事が無い程に、晴れ晴れとし、男として、人として、とても魅力的な物であった。 湧き上がる興味。あのワルドを此処まで変えてしまう、その存在とは何か。 風の噂に聞いた事はある。馬鹿馬鹿しいまでの、純粋な“愛”の人とやらの噂。 しかしクロムウェルの眼前にぶら下る欲望。どんな戦況になろうとも、未だに『レコン・キスタ』が圧倒的優位な兵数を誇る事は変わらず。 押し切れば、待つのは皇帝の地位。 何より己の上に立つ者がある事は許せなかった。 例え始祖ブリミルで有ろうとも、現実に生きる人として存在していれば許せなかっただろう。 彼が抱く野心とは斯様な物である。現にブリミルの残せし遺産の一つ、アルビオン王家の血をこの世より消し去ろうとしている。 クロムウェルは差し伸べられたその手を払った。 「哀しいな、クロムウェル。 やはり『レコン・キスタ』には、我欲しか無かったか 『虚無』であるのは系統ではなく、その心か」 ワルドは哀しげな瞳でクロムウェルを見た。 その視線をも振り払い、クロムウェルは凄む。 「言いおって! いかにスクウェアメイジと言えども、命繋げるとは思わない事だ」 その言葉と共に、怒りが消え去ったように何時もの物腰を取戻す。 そう、この本陣にはワルド以外にも強力なメイジが多数存在する。 既に緊急召集の合図は送っており、直ぐにでもこの場に集うだろう。 この裏切り者を亡き者とし、他の従わなかった者達同様に自在に操るのみ。 しかし、ワルドは余裕を崩さない。 「いや、僕は生きてルイズの元へ帰る。 何故ならば!」 胸を張り宣言する。 「僕と共に有るのは、彼女の使い魔!」 畏怖堂々、余裕の笑みすら浮かべ始めたクロムウェルに向け、涼やかに笑って返した。 「『ガンダールヴ』の力を得、共に一体となって戦う、スクウェアメイジの恐ろしさ。味わって貰おう」 クロムウェルはワルドの言葉が理解できなかった。 『ガンダールヴ』伝説の虚無の使い魔。それは判る、だがそれが一体となるとは? 「待たせたね。アヌビス神」 理解に苦しむその目の前で、ワルドは腰から一振りの剣を抜き放った。 余りに妖しいその刀身。それは答える。 「おせーよ。チンタラ話し過ぎだ」 「ははは、すまなかった。だが今回はきみのお望みが叶いそうだ」 クロムウェルは目を見張った。アヌビス神と呼ばれたその柄に刻まれしは、伝説の『ガンダールヴ』。何故使い魔の印がインテリジェンスソード如きに有るのか。 あまりに常識外、有り得ない事だ。 「オイ、俺も抜けってんだ! 多数のメイジとやりあうには、杖より俺だぁね」 ワルドの背よりも声が上がる。 携えていたもう一振り。 今や、アルビオン王党派の間では、妖刀と対を成す魔剣として認められし、もう一つのインテリジェンスソード、デルフリンガーである。 「折角『エア・ニードル』を使ったのだがね。 ハハハ、焦らず少しだけ待ってくれたまえ」 ワルドは背のデルフリンガーに笑いかけると、杖を振りかざし一気にクロムウェルへと飛び掛った。 この辺でOP ふぁーすとKILLからはじまるーっ 二本のバトルひすとりーっ この強烈なー 斬ーれ味にっ 敵は ばっさーりー バラされたっ 剣が二つ 斬れない敵 ありえないこーとーだーよねー 初めてだよっ こんな斬れ味 やけに殺し 心地よくなっていくー そういう話しなのかも知れない……。 ゼロの奇妙な使い魔 アヌビス神・妖刀流舞 第三部 先人よりの遺産 数刻前、『レコン・キスタ』によるニューカッスルへの一斉攻撃が始まったその頃。 ワルド子爵が本陣へと帰還した。 本陣上空にまで下がった『レキシントン』よりグリフォンで舞い降りてきた彼は、戦利品だという二振りの刀剣を背と腰に差し、ジェームズ一世とウェールズの暗殺に成功したと語った。 「子爵よ、王の首級をあげたとは言え、作戦中に旗艦を動かすのはどうかと思うが」 「はは、凱旋ぐらいさせて貰いたい」 苦笑しながら出迎えるクロムウェルにワルドは笑って返した。 「それよりも人払いを。内密に話したい事があるのですが」 クロムウェルは真剣なその表情に頷き、人払いをした。 そしてワルドから発せられたのは、クロムウェルに取って思いもよらぬ一言。 「閣下。この戦、止める気はありませんか」 今となっての停戦の進言。 既にニューカッスルへの、一斉砲撃は始まっているのにである。 「何を言っておるのかね? 例え敵に策が有ろうとも、力で押し切れば問題無い局面!」 クロムウェルは、ワルドとの間にある、机上に広げられた地図を手でバンバンと叩いた。 「力で何もかもを奪うのは哀しい事だとは思いませんか? 力で押さえ込んで、人々の心が得られるとでも思われますか?」 ワルドは、両の手をその机に置き、優しい声で言葉を紡いだ。クロムウェルに取っては不自然な程に。 「子爵、突然に子供じみた綺麗事を並べて、如何したと言うのだ」 それに不信感を覚えぬ筈もなく、クロムウェルは声を荒げる。 「閣下、変わったのですよ僕は。判ってしまったのですよ僕は。 当然の事をそうやって片付けてしまうのは、己の未熟さへの言い訳でしか無いと思い知らされたのですよ。 所詮、矮小な器の、小さき者が高望みする時の言い訳だと」 怒りだ。 今更のその言葉。 我々は、このクロムウェルは、矮小で小さき未熟者であるという宣言。 何よりも、ワルドの心が『レコン・キスタ』を離れ、己への恐れ敬いが失せて行く事が、言葉、口調から伝わってくる。 それらはクロムウェルの怒りを刺激するには充分であった。 高ぶった感情を乗せた声を、ワルドへと叩き付ける。 ニューカッスル城には轟音が響き渡っていた。 地上から、空から次々と放たれる砲撃。そして魔法。 城は殆ど抵抗も出来ずにそれらに晒され煙を上げる。 抵抗は殆ど無く、時折散発的に反撃の砲火があがる程度であり、只々砲撃を受け過剰なまでの爆発を上げ続ける。 戦勝ムードに包まれ、又、洗脳下にある兵士達。 それらの条件は、この状況を不自然に思うに至らせ無かった。 『レコン・キスタ』の艦隊に紛れる『レキシントン』改め、『ロイヤル・ソヴリン』より、ジェームズ一世は口惜しげにそれを見ていた。 「判ってはいても。故意であっても、悔しい事には変わらぬものじゃ」 城内に残るは、万全を期する為、撤収を察せられないよう行動を取る、隠し港よりの脱出経路を確保した少数の精鋭のみ。城の各所には膨大な火の秘薬が設置され、それらの一部が砲撃を受ける度に爆発を上げる。 残りし精鋭たちも、そろそろ待避する頃合だろう。 最低限の非戦闘員は『マリー・ガランド』号に鮨詰め状態で脱出をした。 満載していた硫黄等の火の秘薬を下ろした倉庫には充分な余裕は有った。 緊急時でなければ乗りたいとも思えぬ環境ではあったが。 ともあれ昨晩の内に出航し、闇と雲に紛れてアルビオンを離れた。 ウェールズ率いる『イーグル』号が途中まで護衛に付いたが、意外な程簡単に大陸を離れる事に成功した。 現在『イーグル』号は雲海に紛れ再び帰還し、ニューカッスル下の隠し港より様子を伺っている。 ルイズらは非戦闘員と共の待避を、ウェールズより言い渡された為、現在『イーグル』号にも『ロイヤル・ソヴリン』にも姿が無い。 使い魔と、仮にも婚約者が残ると言うのに、自分だけ帰れないと愚図るルイズにウェールズは一つの手紙を手渡した。 「アルビオンの貴族では無い、きみたちがこの戦いに参加する事は許されない。 アンリエッタに……、これを頼む。 なぁに内容は、この戦いで命あれば再び会おう。といった物さ」 微笑んで紡がれるその言葉に、納得できないながらも逆らう事が出来なかった。 アヌビス神はやたらと陽気でノリノリな態度で、『んじゃ、また後でな。あ、そーそー、基本オール“許可”だよな?』とワルドと共に去って行った。 ワルドとアヌビス神は、この策戦の要として外す事が出来ない。 何より、『レコン・キスタ』であったワルドは、立場が違う。 「万が一、上手くいかなかった時は、僕は裏切ったと王女と枢機卿に伝えてくれ」 腰に『ブッタ斬る斬るブッタ斬るー』と口ずさむアヌビス神を下げ、ワルドは言った。 そしてルイズの手の甲を取って口付けをし、微笑むと、踵を返し意外な程あっさりと去って行った。 その表情は晴れ晴れしく、武人ぜんとしたものであった。 その場にはルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュが取り残された。 ギーシュは手にした書簡を見詰めて複雑そうにしている。 ジェームズ一世より手渡されたそれが酷く重たい。 『ロイヤル・ソヴリン』奪還と国王の窮地を救った功を称える、それが嬉しくも重たい。 「そう言えば、ミス・ロングビル、じゃなかったフーケは?」 しんみりとした、その雰囲気の中、ふとキュルケはその場に一人足りない事に気付いた。 「今此処ではマチルダと呼ぶ方が適切」 タバサは言葉を返しながらも、キョロキョロと周りの様子を伺った。 この場を去るのならば、直ぐにでも港へ行かねばならないのだが、彼女の姿が何処にも見当らなかった。 さて、時間を戻そう。 ワルドの突き出した、『エア・ニードル』によって青白く輝く杖は、突然割って入った、『レコン・キスタ』のメイジによって阻まれた。 「成る程、僕の人払いの言葉は信用されてはいなかったか」 机の上に立ち、杖と杖を絡めながら、ワルドは横目にクロムウェルを見た。 クロムウェルの更なる合図によって、次々とメイジが集まってくる。アルビオンを始めとする、各国より集いしスクウェアやトライアングルの強者たち。 「こいつら全部潰さねえと任務は完了といかねえな」 ワルドの左の手でアヌビス神がニヤニヤと笑うように声を上げた。 「そうなるね」 己に向けて叩き付けられるゴーレムの腕を視界の端に捉え、絡めていた杖をぱんっと弾き、机を蹴って跳躍する。 宙にて半身を捻りながらマントを翻し、飛来する業火の如くの火球をその表面を滑るようにして回避する。 着地するや、再びマントを翻し、着地点を狙い襲いくる氷弾をマントに絡め無理矢理方向を捩じ曲げ落とす。 「クロムウェル入れて八人はいるぜ、できんのかね?」 デルフリンガーの言葉に、ワルドは杖を振り上げルーンを唱えた後続けて言う。 「『風』はこの様な場に置いては最強さ!」 捲き起こった突風が、取り巻くメイジらの手を脚を一瞬緩める。 「敵にも『風』メイジはいるだろうが」 「ハハハ、問題無い! この術に置いて、僕はハルケギニアの何者にも引けを取る事は無いと自負するッ!! ユビキタス・デル・ウィンデ……!!」 その隙にワルドは一気にルーンを唱えると杖を振り上げる。 「後は任せよう!」 ワルドは杖を懐に収め、右の手にアヌビス神を握りなおす。 「やっと、やっと出番だなッ!? 斬る斬る斬る斬るッ斬ってもいいんだよなァー! 斬る斬る斬る斬るゥーっ! へへへへへへェー!!ハッハァー!!」 ワルドの右の手でアヌビス神が長らくの鬱憤の開放の時を悦ぶ。 吹き荒れる烈風に翻弄されるクロムウェルらの視線の先のワルドが、何重にもぼやけ始める。 「おうおうおうおうおうーっ!こりゃー面白くなって来たッ! 抜け兄弟!」 「応よ、行くぜ!」 アヌビス神はワルドの身体を操り、すらりとデルフリンガーを抜き放つ。 同時にアヌビス神の柄のルーンが燦々と輝きを放つ。 「アヌビス神! デルフリンガー! ワルド 遍 在 二 刀 流 !!」 同時に四体の分け身が姿を現し。声が幾重にも重なり響き渡る。 「こりゃすげえ!」 アヌビス神は初めての感覚に驚嘆した。 得られたのは三の視界を五乗。二の刃を五乗。 そしてこの肉体からは感じられる。かつて無い使い勝手の良さ。 ウェールズも大した物だったが、格が違う。精鋭の中の精鋭。鍛えぬかれ、筋の一本一本、張り巡らされた神経一本一本に至るまで研ぎ澄まされているのが判る。 ワルドに足りない物は実戦の経験と殺しの技術。しかしそれを補って余る、己とデルフリンガーの蓄積。 「行けるか兄弟?」 「ハハッ!五万人全部ばらせる気分だァー!」 デルフリンガーの問いに、アヌビス神は興奮し高ぶった感情を隠しもせずに吼えた。 To Be Continued
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2162.html
一章二節 ~ゼロは使い魔と相対す~ 漫然と身を任せるまま、ルイズの部屋に連れてこられたリキエルだったが、道すがら、 停止状態にあったその思考は回復の兆しを見せるようになっていた。少しずつ、身に起きた異常に心が向き始めたのである。 心身ともに整理のつききっていない状態ながら、リキエルはとりあえず事情に明るそうな人間、ルイズに話を聞くことにした。聞いて、まず困惑した。してから、当惑した。いくつかの質問を投げかけたが、返ってくる答えは要領を得ないものばかりで、混乱を助長するものでしかなかったのだ。 「メイジ? 召喚? 契約? 使い魔? 意味がわからないぞ。ここはどこだって?」 「あんた何、まさか魔法を知らないわけ? いったいどんな田舎から来たのかしら。着てるものも変だし、ついでに言えば髪型……っていうより髪の毛も変よね。ここはかの有名なトリステイン魔法学院よ。田舎者っていっても、名前くらい聞いたことあるでしょ?」 呆然とした面持ちで――内心も同じ心持ちで――確認するような口調のリキエルに対し、ルイズはぞんざいな口ぶりで、滔々と言いたいことだけを言った。 「聞いたことがないからこーして訊いてるんだ。大体なんだ? 魔法ってよぉ。それに田舎だって? フロリダは有数の観光地だ。宇宙センターもあれば鼠と夢の国もある州だぜ、それなりに興業はうまくいっているし、総生産も七千億を超えてる。これは五年前のことだがな」 「ふーん、そう。五年前っていうと、わたしまだ十一歳だわ」 「じゃあお前は十六なのか。って、そんなことはどーだっていいんだ! というより、惚気の入り混じった面白くもない恋愛相談を聞くような、露骨にどーでもいいって顔をするんじゃあない!」 「今お前って言ったわね? 言葉には気をつけなさいよ、平民のくせに」 会話は、一向にかみ合う気配すらなかった。 「平民だって? またわけのわからないことを……。ともかく! どうやって連れてきたのかはこの際どうでもいい。お前達の目的も正体も知ったことじゃあない。オレをもと居た場所に帰してくれッ!」 ――ん? そうだ、オレはどうやってここに来たんだ? オレは事故って……。 愚痴っぽく言いながら、リキエルは同時に疑問を抱く。それは思考能力の復旧作業が、今しがたになって完了したからだった。そうなると、自身の現状をより深く考えることもできるようになる。しかしそれはリキエルにとって、決して喜ばしいことではなかった。 ――鏡……いや、鏡らしきものか。それが向かってきて、違う。向かってったのはオレだ。それで意識が、左手に奇妙な文字が、イギリスにあるようなやたらとでかい城が見えて、でかいといえば、あの月はなんだ? 大きさはともかく2つある理由は、ってそうじゃない。どうしてオレは……。 「言葉に気をつけなさいって言ったでしょ。還すなんて無理よ。もう契約しちゃったし、呼び出すことはできても、元に戻す魔法なんてきいたこともない……ってちょっと聞いてるの? 主人の話くらい聞きなさいよ!まったく、使い魔としての自覚に欠けてるんじゃないの? いい? 使い魔っていうのはね」 思考の渦にはまり込んだリキエルの耳には、ルイズのそんな声はほとんど入らず、ムスッとした顔も目に入らないようだった。 ――そうだ、ああそうだ。いやそうじゃない。なにがだ? なにが、オレは事故って、左手に激痛が……人が飛んで、魔法だと? あ? 魔法だ? わけがわからなく、わけ、あ、まずい。わからねえ。これ以上はやばい。これ、わけが、これ以上は、うう! やばい、まただァ! 息が荒れ、汗が噴き出す。 「主人の目となり耳となり、秘薬やその素材を見つけてきたり、主人の身を守ったりする存在なんだけど、どれもあんたには……あんた、ど、どうしたのいったい」 「やべえぜッ! 手から汗が、ビショビショだ。まぶたが下りてくる!」 リキエルが突然大量の汗をかきながら取り乱すのを見て、使い魔の役割について講釈していたルイズは狼狽する。 ――バイクで、左手が、月が2つ、魔法が、事故って、使い魔で、人が飛んでッ! 手に激痛、手、手が汗で、激痛、ふかないと! 目が、前が見えねえ! タオルは? ここはどこだ!? うおぁあまぶたが! 「い……息苦しいッ! 汗をふきたいッ! タオルはどこだッ!?」 「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ! どうしたっていうのよ!?」 ――落ち着け? 落ち着け!? 落ち着けるわけがねえ! くそ、息苦しい! タオルはどこだ。ここはどこだ! 駄目だ、考えるんじゃあない! またいつもみたいに、また、また! ああくそ。苦しい! くるし、考え、息がッ! リキエルの意識の中には既に、ルイズの存在など影も形もない。それどころか、自分が正常な意識を保っていられるかどうかさえ、リキエルにはわからなくなってくる。 正気が保てない。そう思った瞬間リキエルは、首の後ろだけを無重力状態にされたような、嫌な浮遊感を伴う恐怖にさらされた。 「まぶたがッ! どんどんおりてくるんだぜッ! 見えねえッ!」 「なんなのよ……いったいなんなの!」 はいつくばり、ゲドゲドの恐怖面で滅茶苦茶に手探りをするリキエルを前にして、ルイズの方もパニックを起こしかける。 リキエルの思考は止まらない。 ――鏡が、事故って、バイトの、召喚、激痛、考えるな、激痛、正気が、正気が、使い魔、汗をふきたい、タオルは、また、考えるな! まぶた、息苦しく、前が見えねえ! 正気が、ちくしょおお! 「いつもだ! ストレスが重なるといつもこうなる。使い魔だって? オレにはなんの力もない! こんなオレに何ができるっていうんだ!? ちくしょう、ここにタオルはねーのか! 死ぬかもしれないッ!」 処理しきれずに断片的になり、乱雑に思い浮かぶ記憶の奔流に精神をかき乱され、リキエルは耐え切れずに悲鳴を上げた。 「え?」 メイジの存在すら知らない平民を使い魔にしなければならない理不尽と、その平民が目の前で何の前触れもなしに取り乱し、喚きだすという理不尽に苛まれ困惑し、小刻みに震え立ち尽くしているだけのルイズだったが、その平民の悲痛な叫びで、半強制的に意識をゆり戻された。 ルイズは考える。この男は自分の使い魔だ。平民であろうと人間であろうと、自分の召喚した使い魔だ。その使い魔が苦しんでいる。突然池のど真ん中に放り込まれた蟻のように苦しみ、もがいている。使い魔を見捨てるメイジがいるだろうか。そうすれば、自分の理想とする貴族の像はどうなる。自分の憧れ、姉達ならばどうするか。 「……」 改めて彼の様子をうかがってみると、その苦しみようがわかる。 目を覚ましたときから閉じられたままだった片目は気になっていたが、いまや両のまぶたが下がったまま痙攣している。汗はまさに滝が流れ落ちるようで、両手で押さえられた喉からはヒュウヒュウと、取入れ損なった空気がもれ出ていた。 「……」 厳しいが優秀な上の姉なら、こともなげにその冷静さで対処するだろう。病弱だが優しい下の姉なら、その優しさでもって献身するだろう。自分にはそれはない。ないが、できることがないわけではなかった。 「タオルは、タオルはねェーのか! くそ、正気が、息が……はっ! こ、れは」 むなしく空を掻くだけだったリキエルの手のひらに、ごわごわとした布の感触が触れる。 「お、落ち着きなさいってば! ほら、タオルよ。ゆっくり息を吸って、汗をふきなさい!」 「ヒック、ヒッ、クァ! はぁ―、はぁ―。あがが、はぁ―」 リキエルは渡されたタオルで一心不乱に両手をふく。タオルはよく汗を吸い、驚くことに、絞れるまでになった。 「はぁ―、はぁ―、がが、かっ、はぁ―、すまない」 尋常ではない量の汗が流れ、まぶたも上がっていないが、少しずつ息が整ってくる。なんとか話ができるようになったリキエルは、喘ぎながらも謝辞を述べた。 「ほ、本当よ、感謝しなさいよね。大体、しし、死ぬだなんて大げさなのよ。ちょっと、ちょっとだけびっくりしたじゃない。いったいなんなのよあんた」 プライドからか、動揺を隠すため、ルイズはかき集められるだけの威厳を声に乗せて、どもりながらもそう言った。なんなのよ、とは抽象的だったが、リキエルは、その言葉の意図するところを汲み取った。 「はぁ―はぁ―、クッ、はぁぁ――――」 最後にひとつ大きく息を吐き、もう一度「すまない」と言ってから、リキエルはポツポツと、自分の元いた場所とこの場所との差異、この場所に来るまでの経緯について語り始めた。 ◆ ◆ ◆ 「つまり、月がひとつで貴族もメイジもいない。あんたはそんな場所から来た?」 「Exactly(そのとおりだ)」 「……遠くから来たっていうのはなんとなくわかるけど、さすがに信じられないわ」 「オレだって同じだ。信じられるか、こんなファンタジックでメルヘンなことが」 ベッドに座り、リキエルの話に耳を傾けていたルイズだったが、その内容は彼女の価値観でいえば突飛すぎるもの、非現実的すぎるものだった。田舎者の無知な平民と考えていたが、自らの使い魔となったその平民は、ひょっとすると予想外に厄介な存在なのかも知れない。 先ほどのリキエルの取り乱しようから、少なくとも、彼のいた場所とトリステインには、その生活様式から常識に至るまでさまざまな差異があることはわかっていたが、その場所が異世界ともなると、話の段階が変わってくる。 ――もしかしたら……。 担がれているのかも知れない。あるいは、リキエルの精神が異常をきたしているとも考えられた。先ほどのリキエルの様子を見たあとでは、そんな可能性もないとは言い切れない。むしろそう考えた方が、より現実的とさえ思えルイズには思えた。 しかし、相変わらず片方のまぶたが下がったままで顔色もよくないとはいえ、今のリキエルの受け答えは健常者のそれだった。困惑しているようではあるが、混乱もしていなければ、特別おかしなところも見受けられない。 担がれるにしても、そんなことをする理由は初対面のリキエルには無く、第一あの苦しみようが演技ならば、トリステイン領内にある劇団のほとんどはお遊戯会もいいところだ。 ――って、お芝居を見たことはなかったわ。 答えも出ないまま思考が逸れる。思考が散漫になってきているらしかった。 結局のところ、リキエルの言うことを信用できるかといえば、やはりその内容が非現実的すぎるのである。 もし本当だとしても、どうするべきなのかルイズにはわからない。送り返すべきかもしれないが、自身が言ったようにその術を知らない。聞いたことすらない。だいたい、話の内容がどう考えても非現実的すぎる。 ――アレ? 気づけば、ルイズは堂々巡りの第一歩を踏み出していた。 ここまで考えたあたりで、ルイズは一度考えるのをやめた。リキエルそのものには気の毒という感情も湧くし、先ほどの様子を目の当たりにした以上、あまり無体な扱いをするのも気が引ける。それでもやはり平民のためにあれこれと悩むのはなんだか癪だったし、精神的にも肉体的にもなんだか疲れてしまっていた。 そんなルイズの悩みの種、一方のリキエルはというと、こちらもあれこれと考えている最中だ。 ルイズと話をする過程で、図らずも思考の整理がついたため、驚きこそすれ、先ほどのようにパニックを起こすことはなかった。なかったが、それでもこの事態にはついていけなかった。ただ漠然と、ここはどうやら異世界らしい、ということが理解できてしまっただけである。 輝く鏡に魔法に貴族。おまけに目の前の小娘の言を信じるなら、自分は召喚された使い魔らしい。普通ならば、新手の悪徳募金収集か? と耳も貸さないだろうが、実際に目の当たりにした諸々の出来事を鑑みれば、そう思うよりなかった。 理解を超える事象には無理やりに理屈をつけず、流されるままそれを受け容れるか、夢の中だと思う方が楽だ。一種の現実逃避だが、今のリキエルにそのことについて深く思考する気力はない。なるようになれである。 そういったこともあってか、リキエルは使い魔をやってもいいような気がしていた。捨て鉢な気持ちだが、それだけというわけでもない。 ――コイツに。 助けられた、とも思うのだ。偶発的なできごとであれ、分離帯に突っ込まずに済んだのは大きい。やけに高飛車な態度はあまり好かないが、先ほどパニックの発作を起こしたときに、自分を気遣ったことから――使い魔に対してはそれが当然なのかもしれないが――さほど性根の悪い人間でもないらしい。 それに、話を聞いた限りは元の世界に帰る方法は目下のところ不明で、その方法がわかるまではこの世界で生活することになる。当面は自分は養われる側で、他に選択肢が無い。 そして何よりの理由として、今は疲れているし、いろいろと考えすぎてまたパニックに陥りたくもなかった。 ハァ…… 黙考を続けていたルイズとリキエルは、ここ数時間のうちに増えた悩みを思い、同時に心の中で嘆息した。 「そういえば、あんたどうして片方のまぶたが下がってるの?」 「……ああ、まあ、気になるよなァ~」 ひと段落ついたところでルイズは、抱いていた疑問を投げかけた。 ルイズにしてみれば単純に疑問を口にしただけなのだが、リキエルにとってその質問は、トラウマのスイッチを入れるキーワードである。それなりに安定していたリキエルが、みるみるうちに沈む。 「最初は16の頃からだ……学年末の試験の会場だったよ。両方のよォー、まぶたがストーンと急に、俺の意志に関係なく落ちてきちまってよォー」 語りながら、リキエルの顔は少しづつ青ざめていった。額には早くも玉の汗が浮かび、呼吸も荒くなってきている。 「はッ! もしかしてやな予感。まま、まさか、また!? もういいわ。は、話したくないならもういいから!」 リキエルの様子に気づき、また先ほどのようにパニックを起こされてはたまらないと、ルイズは叫ぶようにして、あわてて彼の話を遮った。 「ハァ――、ハァ――」 リキエルは額に掌をあて、汗をぬぐいながら深く息をする。 未然にリキエルのパニックを阻止し、ルイズも安堵して冷や汗をぬぐう。やはり厄介な平民を使い魔にした、と思った。 ――使い魔といえば。 リキエルの呼吸が整ったころ、ルイズは使い魔の仕事についての話が途中だったことを思い出した。納得がいこうがいくまいが、この平民に使い魔をさせるしかなかった。ならば、その役割について教えておかなければならない。 そう思い、ルイズは口を開いた。 「で、改めて使い魔の仕事につい――」 「ちょっとルイズ、あなたさっきからぎゃーぎゃーうるさいわよ。隣付き合いはデリカシーを大切にしなくちゃあね。それにお子様はもうそろそろ寝るお時間じゃなぁい?」 と、そのとき唐突に部屋の扉が開き、ルイズよりいくつか年上と思しき女生徒が無遠慮に踏み入ってきた。ボリュームのある赤い髪と、情熱そのものを閉じ込めたような紅い瞳が褐色の肌に良く映える、ルイズとは違う種類の美人だ。ルイズが顔美人ならば、こちらは色気美人といった具合だろうか。プロポーションに至っては完全に対極である。 「だ、誰の体が、なんですって……? 誰の体型がお、おおお子様みたいですってええ!? 確かに聞いたわ! じゃなくてツェルプストー! なに勝手に入ってきてるのよ! 学院内で『アンロック』を使うのは禁止のはずでしょうが!」 「ご挨拶ね、あなたが心配だから見に来てあげたのよ? どうやら平民を使い魔にしたらしいじゃないの。落ち込んでるんじゃあないかってね」 「なっ! あん、た……い、いけ、いけしゃあしゃあぁ……ッ」 ルイズはいろいろと言いたそうだが、言いたいことがまとまらないのか、口元をわなわなと震わせているだけで声がでていない。頭に血が上ると、舌が回らなくなる性質らしい。 そんなルイズを捨て置いて、グンバツな女生徒はリキエルに視線を向けた。 「あなたお名前は? 私はキュルケっていうの。二つ名は『微熱』」 「オレはリキエル」 リキエルは唐突に入ってくるなりルイズと口論――食って掛かっていたのは主にルイズだったが――を始めた女に面食らっていたが、どうやら隣人であることがわかると、こういったこともさして珍しくはないのだろうと判断した。 キュルケはリキエルを値踏みするように上から下まで観察した後、ルイズに視線を戻し、挑発するような笑みを顔に浮かべた。 「本当に平民なのね。因みに私はサラマンダーだったわ、正真正銘、火竜山脈のね。好事家に見せたらまず値段なんてつかないでしょうね~」 「ぐ、だからなんだっていうのよ! そんなこと言いに来たんなら、さっさと自分の部屋に帰りなさいよ!」 サラマンダーを召喚したという言葉にルイズは一瞬たじろいだが、すぐに持ち直してキュルケ部屋から追い出そうとする。キュルケも長居するつもりはなかったらしく、「乱暴ね」などと言いながらも出て行くそぶりを見せた。 「そういえば、キスのお味はどうだったのかしら? まさかあれが初めてじゃあないわよね? まあどうでもいいけど。じゃ、おやすみなさいね~」 が、ただで出て行くつもりもなかったようで、非常に強力且つ、主にリキエルにとって危険な爆弾を放り投げていった。その爆弾は、理性によってなんとか抑えつけられていたルイズの怒りを、ものの見事に爆破した。 「ぬう~~~っ! ツェル、プス、トオオオォォオオオオ!」 言葉を発するもままならず、ルイズは獅子の咆哮もかくやそう叫ぶと、乱暴に服を脱ぎだし、これまた乱暴にネグリジェへと着替えだした。 なぜ脱ぎだす? だとか、繊維を傷めるんじゃあないのか? だとかをリキエルが考えている間に、ルイズは着替えを終え、呆けた顔のリキエルに小山ほどの量の何かを投げつけた。 「もうっ! 寝る! 疲れた! 洗濯!」 色々と抜け落ちた言葉で叫ぶと、それを最後にルイズは本当に寝てしまった。 使い魔の役割を話すことはおろか、リキエルを気遣うような思考も、とうの昔に白河の底である。いや、多少なりともそんな思考があったからこそ、そして疲労が溜まっていたために、リキエルは怒鳴られる程度で済んだのかもしれなかった。 これが普段のルイズであれば、リキエルが無事に次の朝を迎えることはなかっただろう。とりあえず鞭で十六連打された後、延髄蹴りに部屋から蹴り出されていたはずだ。 なぜルイズがそこまで激昂するのか? その理由は使い魔とメイジとの契約の儀、『コントラクト・サーヴァント』の方法にある。 その方法というのが――勿論リキエルの与り知るところではないが――口付け、有態にいえばキスなのである。 呼び出した使い魔が人間で平民で、さらにその平民にキスしなければならない。ルイズは初めそれに明確な拒絶を示し、再度の召喚を猛烈に望んだが許されず、結局リキエルにキスする破目になったのだ。 しかも実をいえば、それはルイズのファーストキスだったのである。うら若き乙女の初接吻ともなればその重要性は語るに及ばず、それを見ず知らずの馬の骨、もとい牛の皮に捧げざるを得なかったルイズの苦悩は、推して量って知れずとも知るべしである。 そして、あくまで使い魔との契約のためなのだから、あれはキスのうちにカウントしないはず、と半ば以上無理やりに納得し、忘却の向こう側へ押し込もうとしていたところにキュルケの爆弾である。たとえルイズでなくとも、堪忍袋の尾が切れることこれ必定也、である。 「気をつけた方がいいかもな、これは」 知らず知らずのうちに命拾いしたリキエルは、それでも本能的に危険を察知していたようで、ルイズはキュルケを敵視しているらしいということを心に刻んだ。ついでに、身体的なコンプレックスがあるらしいことも、備考として刻む。 それから渋い顔をして、先ほど投げつけられたものを拾い上げた。衣服の類と……下着にしか見えない白い布。これを洗えということらしい。どうやら、身の回りの世話や雑務全般を押し付けられたようだった。 「……まあいいか」 嘆息しながらも、リキエルは自分を納得させる。 高飛車で高圧的な態度は、生きた封建という制度と年相応のわがままで話が付く。洗濯は仕事と思えばどうということもない。何もできないと言ったのは自分だし、本当のことだ。これくらいのことは当然と思えばいい。恩云々を置いておくにしても、上下しか分からないこの世界では、薄く寝息をたてるこの少女に頼るしか、他にないのである。 「男にこういうのを洗わせるってのはどうかと思うがな。貴族ってのはそういう奴らってわけか?」 ルイズに言ったものか、そう皮肉気につぶやいたリキエルは、とりあえず寝床を探し始めた。今から洗濯をするほどの気力は残っていない。今日は寝て、明日の朝早く起きしてやればいいだろうと、リキエルは思ったのだが、 「あ……なんだ? 毛布の一枚もないぞッ! 床で、しかも布切れ一枚かぶらずに寝ろってことかよッ! これも貴族と平民の差ってやつなのか!?」 使い魔の仕事もやぶさかではないと思っていたが、それもやはり間違いだったかと、リキエルは身の不遇を嘆きながらも床に寝転がった。そうすると、まだ少し脳が興奮しているのか、取り留めのない考えが浮かんでは消えていく。 (冷たい床だな。石だからだろうな……お、体温で温まってきたなァ。冷てェ! 寝返りはまずかったか。自転車のサドルとかも、こんな感じで冷たいよなァ。朝方とかよォー。そういや、バイクはどうなったんだっけか。ま……いいか。乗っても、また事故るだけ、だろうさ。床は冷たいが、寒くは、ないな。秋か、春か、この世界にも、季節とか暦ってのは……あるんだろう、なァ) ふと、目じりのあたりに痺れるような感じがしたので、リキエルはまぶたを少し強く閉じた。すると、強い虚脱感が体を襲う。興奮の裏に潜んでいた抗いようもない睡魔が、リキエルの腕を掴み、引き込もうとしているらしかった。 リキエルはまた、漫然と身を任せた。